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幕間 侍女の胸さわぎ(侍女メイの視点)
わたしはメイ。リーヴ子爵家に雇われている侍女です。
リーヴ子爵家は、由緒正しい家柄だそうですがお屋敷は小さいです。
お屋敷が小さいので使用人も少ない。そしてお給金はとても安い。
名目上、わたしはリーヴ家のご令嬢アスターお嬢さま付の侍女となっていますが、使用人の数が少ないため、あれもこれもと仕事が多いです。
仕方ありません。
わたしがリーヴ家に来たのは十四歳の時。経験ナシ、紹介状ナシの娘を住み込みで雇ってくれるような所は、ここ以外にはなかったのです。
別のお屋敷にいる侍女友だちからは、「なんで辞めないの?」「別のお屋敷に移れば?」と言われます。
たしかに大変なこともありますが、別のお屋敷に移ろうという気にはなりません。
慣れちゃった、ということもありますが、ここにはアスターお嬢さまがいるから。
アスターお嬢さまは変わった方です。
わたしがこの屋敷で働くようになった当時、お嬢さまは十歳でした。
その頃からアスターお嬢さまは、わたしより大人びた考え方をしたり、難しい言葉を多く知っていました。
まるで、幼い身体に大人の精神が同居しているような……。
他のお屋敷ではよくある、使用人へのムチャぶり、わがままというものは、アスターさまには一切ありません。
何かをお命じになる時は必ず「お願いね」と言い添え、体調や機嫌が悪い時でも「ありがとう」とお礼を言うことを忘れない。
貴族のご令嬢というより、苦労を重ねた商家の奥さまみたいです。
そんな穏やかなアスターお嬢さまですが、たまに奇矯な振る舞いをすることがあります。
お部屋で一人でいる時、秘密のノートを前にして頭をかきむしってうなったり。かと思うと、けたけた笑ったり。おいおい泣いていることもあります。
……大丈夫かな?
一度旦那さまに、お医者さまに診せたほうが…と申し上げたのですが、「問題ない。あの年頃は情緒不安定なものさ」と、退けられてしまいました。
問題…あると思うのですが……。
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