171人が本棚に入れています
本棚に追加
生命エネルギーであるプラーナを巡らせ、チャクラを開き、回す術を覚えた。
チャクラというのは生命のエネルギーを発生させる場のこと。第一から第七まであって何枚もの花びらがある丸い花のような形をしている。
このチャクラをプラーナで回すことで、エネルギーは高まるのだ。
第一のチャクラを開くのには一ヶ月もかからなかった。
その後、第二、第三のチャクラと下から順々に開いてゆき、この年の終わり頃には六つのチャクラを開くことができた。
ただ、第七のチャクラはいつまで経っても開く気配はなかった。
第七のチャクラが開くと、ものすごい、奇跡のような力が使えるようになるという。
さすがにそんなもの簡単には開かないよね。
それでもチャクラを開けるようになると、不思議な力が使えるようになった。
誰かに触れると、その人の健康状態がわかるのだ。
お父さまの二日酔い。お母さまの肩こり。わたし付きの侍女の不眠症。相手に触れただけで、わたしにはそれがわかった。
プラーナの動きでそれを知ることができるのだ。
前世ではこんなことできなかった。それができるのは、ここが魔法のある異世界だからだろう。
わたしの上達が早いのも、不思議な力が備わるのもきっとそのせいだ。
ひょっとして、魔法の力も上がったのかも?
なんて期待して調べてもらったけど、わたしの魔力は相変わらず低いままだった。
ヨガの神秘の力と魔法は似て非なるものらしい。
一番驚いたのは、両親との関係も改善されたことだった。
ヨガをはじめて二年ほど経ったある日のことだった。
「お前、最近きれいになったな」
お父さまがわたしを見てそう言ったのだ。
「まあ、ほんとうね。髪の色つやといい、肌といい、ほんとうにきれい」
ちょっと…いやかなり羨望を含んだ声でお母さまが言う。
これもヨガの効果だった。
──ほんとうの美しさは、身体の内側から出るものだよ。
前にギヨムさんが、そして前世で用賀さんが言った言葉の通りだった。
髪も肌もその美しさは身体が健康でなくてはならない。
それと精神的な健康も重要だ。
以前に比べ、わたしは明るく、前向きになった。
現在、鏡に映るわたしは、以前とは別人に見える。パーツはそのまなのに、心が変わるとこんなにも変わるのかと自分でも驚いた。
「これなら将来期待できそうだな」
「ええ、いい嫁ぎ先を見つけましょう」
お家再興の夢を取り戻した両親は、わたしをかわいがるようになった。こっちは競走馬か何かみたいな気分だったけど。
でも、何も期待されないよりはずっといい。
◆ ◆ ◆
前世の記憶を取り戻してからの何年かは、とても幸せだった。
前が不幸だったから、今回はそれよりはマシな人生に、神様が取り計らってくれたのかもしれない。そんなふうにも思った。
前世で恵まれなかったぶんを、心残りだったことを取り戻すように、わたしは日々を楽しんだ。
美味しいものを食べ、読みたい本を読み、おしゃれをした。もちろん底辺貴族の経済力がゆるす範囲内でだけど。
ヨガ専用のウェアやマットを作らせて、ヨガをもっと楽しんだ。
ヨガは様々なポーズをするからね。肩や足が窮屈でないもの、そして丸見えにならない服が必要だ。
マットは古いカーペットを切り取ったものを使ったけど、肌触りはごわごわだし、すべりやすいしでよくなかった。
カーテンの生地やタオルを試したけど、どれもイマイチ。でもこうした試行錯誤もふくめて楽しんだ。
唯一残念なのは、この世界に乙女ゲームがないことだった。でも、ないものを欲しがってもしょうがない。
そう言えば、前世でプレイ中だったゲーム。あれはどんなゲームだったっけ?
ふっとそんなことを思ったけど、すぐにどうでもよくなった。
佐倉あすかだった時の記憶は、夢での出来事のように薄れ、やがて思い出すこともなくなっていた。
わたしはヨガで、豊かで穏やかなスローライフな人生をおくるんだ。
ああ、なんて素晴らしいんだ。今回の人生は。
最初のコメントを投稿しよう!