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前世の記憶を取り戻してから三年。
わたしが十一歳になった年のことだった。
わたしと両親は、リーヴ家の主家に当たるお嬢さまの誕生日会に招待された。
正しくは召集されたといったほうがいいかも。
招待状を送ってきたナイトレイ公爵家は、ウチの主家というだけではない。代々の国王を選出してきた王室御三家の一つだったからだ。
だからウチの両親の興奮といったらなかった。
「ナイトレイ家のお嬢さまといえば、アスターの一つ上ではなかったかしら?」
「ああそうだ。年の近い友人がいないとも聞いている。アスターが友だちになれば、ウチの覚えもめでたくなるぞ!」
はいはい。お家再興、底辺脱出ですね。
パーティ用の礼装を準備しながら、捕らぬ狸のナントカをしている両親に、わたしは苦笑した。
お家再興はともかく、新しく友だちができるのは悪いことじゃない。
この三年。ヨガのおかげで心身共に強くなっていたわたしは、そんな余裕すらあった。
しかしその余裕は、ナイトレイ家のホールに入った瞬間に吹き飛んだ。
すごい! すごすぎる!
とんでもなく広いホール。壁は金と銀と鏡で装飾され、天井にはたくさんのシャンデリア。きらびやかすぎてまぶしいくらいだ。
壁際のテーブルには、銀の大皿や銀のトレイに乗せられた豪勢な料理が並んでいる。その間には氷で作られたドラゴンや、パイの巨大魚、スイーツで作られたフェニックスなどがあった。
規模といい、豪華さといい、ケタ違いだ。さすがは公爵。これが本当の貴族。
両親がすりよりたくなる気持ちが、ちょっとわかった。
パーティの出席者もすごかった。伯爵、侯爵がごろごろいる。少ないけどわたしと同じくらいの子供たちもいた。
公爵、侯爵、伯爵といった大貴族の子供たちだ。子爵家の子供なんて、わたしくらいじゃなかろうか。
その中の二人の美少年が、わたしの目を引いた。
「レオンさまだ。あの髪、先代にそっくりですな」
「ユーリックさまよ。まあ、大きくなられて」
貴族たちの会話が耳に入った。貴族たちも、二人の少年に興味津々の様子だ。
金髪のちょっと内気そうな子がレオン。
黒髪で朗らかに笑っている子がユーリックというようだ。
──レオン、それにユーリックさま?
どこかで聞いたことのある名前だった。
それに、顔にも見覚えがあるような……。
レオンとユーリックを見つめながら、大人たちの会話に聞き耳を立てる。
レオンはロードシルツ公爵の、ユーリックはアルビオン公爵家の長男だということがわかった。
ロードシルツ家とアルビオン家。どちらも王室御三家の家だ。
なんだ、御三家の王子さまだったのか。それなら名前くらい知っていても当然だ。
わたしがそう思った時、高らかにファンファーレが鳴り響いた。
本日の主役、ナイトレイ家のお嬢さま、ヴィクトリアのお出ましの合図だ。
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