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「さあ着いたぞ、シオン。 この馬車だ」
「…………嘘だろ」
兄貴に促されどこまでも続いていそうな街道に目を向けてみると、そこには見る影もないオンボロな馬車があった。
今にも壊れそうな程やばいやつが。
「……なあ兄貴、本当にこれで合ってんのか?」
「そうだぞ。 なんだ、嫌なのか? 文句を言うもんじゃない。 追放者が馬車に乗って去れるなんて夢のような状況なんだぞ?」
いやまあそれはそうかもしれんけども。
だからってこれは無しじゃない?
窓は割れてるし、走り出したら車輪が外れそうなくらいガッタガタなんだが?
「本当に走るんか、これ?」
「シオン…………」
兄貴が腰に手を当てて溜め息を吐くが、俺は気にも止めず更に文句を連ねる。
「だってこれ絶対あぶな…………」
「あんたね……」
するとそれに苛立った姉さんが耳を引っ張り、御者台まで引っ張っていった。
「いだだだだ! 姉貴、ストップ! 耳がちぎれるって!」
「うるさい! 良いからとっとと行きなさい!」
どうやら観念するしかないらしい。
「分かったよ、乗りゃあ良いんだろ…………。 あー、いてぇ……」
「まったくこの子ったら……」
渋々諦めた俺は耳を労りながら御者台に手をつい…………。
っておい、ちょっと待て。
「なんで俺が御者台に乗るんだよ! 御者のおっさんは!? なんか代わりに俺が助けた女の子が手綱握ってるしよ!」
「こ、こんにちはお兄さん! 昨日ぶりですね! あの……これからよろしく…………」
少女が矢継ぎ早に喋ってくるが俺はそれをスルーして、一旦姉の方を向いた。
「ええ、居ないわね。 だって行き先を私達以外に知られるわけにはいかないでしょう?」
あの仏頂面な姉貴が眩しい笑顔を……!
うわあ、似合わねえ!
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