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三話 天才の思い通りになるのはやっぱり癪 2
「で、ではお馬さんよろしくお願いします」
「あ、ああ……」
目付きが気にくわないと姉貴にキレられ、御者台に逃げ込むなり馬の手綱を握らされてしまった。
どうやらこの子は馬を引けないらしい。
なので仕方なく引き受けたのたが、俺だってあまり経験がないから不安である。
「なあ姉貴、やっぱり不安なんだけど」
「男なんだからしゃんとしなさい」
もう男らしいんだから。
まあでも確かにいつまでもダダを捏ねても仕方がないだろう。
どうにもならないんだから諦めるか。
「へいへい、分かりましたよ、っと! ほい行くぜ、馬」
と、俺は手綱をしならせ馬に合図を送ると、
「ヒヒーン」
二頭の馬がゆっくりと動き出した。
背後からギシギシ音がするが気にしないでおこう。
「あっ、そうだ。 これを渡しておくよ、シオン」
「ん? なんだこれ、手紙か?」
ようやく少しスピードが出始めた頃、何かを思い出したように追いかけてきた兄貴が一枚の封筒を渡してきた。
厚みからして手紙っぽいのでなんとなく尋ねてみたのだが、その問いを耳にした兄貴と姉貴の顔色が曇る。
「うん、父から」
「親父から? なんだろう」
「あっ、待つんだシオン!」
俺は昨日今日の件がある為、非常に中身が気になり封筒を開けようとしたのだが、兄貴に止められてしまった。
「後で読んでくれ。 ゆっくりと……ね」
「気をしっかりもつのよ、シオン」
なんなの、なんなんですか。
凄い気になるんですけど。
「………………わ、分かった。 あ、後で読むよ」
「そうしてくれ……」
気にはなるものの嫌な予感しかしないので、封筒は一旦尻に敷いておいた。
「じゃあそろそろ行くと良い。 またね、シオン」
「シオン、身体に気を付けるのよ」
二人とも兄妹だからといっていつまでも別れを惜しめる立場じゃない。
兄貴も姉貴も手紙を渡し終えるなり、立ち止まり手も振らずに背中を見せる。
残念だけどこれが追放者とその他の関係性だ。
家族だろうと関係ない。
むしろこれだけ良くしてくれたことに感謝すらするべきだろう。
だから俺も二人に振り返らず、真っ直ぐ前を向いてボソリと呟いたのだ。
「ありがとな、兄貴、姉貴。 また…………いつか会おうぜ」
…………と。
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