渇望

1/1
前へ
/1ページ
次へ
空は遮られる事無く永遠に続き、緑の絨毯も緩やかな曲線を描きながら地平線へ続く。 牛が方々に点在し、のんびりと草を食べている。ゆっくりと時が流れるその空間で俺は寝そべる。タバコをくわえ、肺いっぱいに煙を溜める。時間をかけ、しかし途切れること無く吐き出す。真っ青な空に雲のように漂う煙はやがて心地好い風に吹かれて西へ流れていく。 何と素晴らしい時間。余りの穏やかさに筋肉が緩み何処と無く眠気がやってくる。瞼が自分の意思と関係なく下がってくる。やがて閉じきった瞼にはあの美しい空が、大地がまだ焼き付いていた。至福の時。覚醒と睡眠の微妙な境界線を漂いながらいつしか眠りに落ちた... 目が覚める。暗い天井。夕刻だろうか、窓から指す赤黒い光は1日の終わりを示していた。 最もそれは人口的な太陽光だ。便利な利器が開発されるにつれ緑は失われ空は色褪せていった。自然と触れ合う喜びを得る事は出来なくなった。そこで政府からある錠剤が支給される様になった。一種の催眠薬でこれを飲んで眠ると素晴らしい自然の夢を見る事が出来る。沈黙は金というが政府はいつも余計な事をしてくれる、自然が既に失われた世界に生まれた私にただ手に入らない渇望だけを植え付けたのだから。 赤黒い太陽が徐々にビルの中に消えていった。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加