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「こ! この裏切り者め‼ 貴様のような下劣な存在が魔王直属の軍を指揮しているだけでも汚点だというのに、敵の本拠地を目の前にして退却してきただと⁉」
「ありえぬ! その命を全て散らしてでも、敵の地を踏みにじるべきだ‼」
大方の予想通り、俺は魔族の「お偉いさん」たちに、糾弾される立場となる。
それに、期待していた本隊は結局来なかった。
それは何を意味しているのか? 誰でもわかることだ。
「それで、こちらが頼んだ増援は? いつまでも到着しないので、帰ってきたまでのこと、それに、敵はまだまだ戦力を保有しております。あのまま戦えば、こちらが負けていた」
「な! 生意気な口をきくでない、お前なんぞ、死んでくればよかったのだ‼ あぁ、そうだ! 今からもう一度行って死んでこい!」
はぁ、なったく、この雑魚どもでは話にならない。
先ほどから、一言も話さない魔王様に俺は威圧的な視線を向けてみた。
「……落ち着け皆、まずはケトル、ご苦労であった。魔王軍総括として礼を言う。そして、自身の判断は間違っていないと自信をもって言えるのか?」
「はい、もちろん、確かに老いぼれドラ爺の言うように、突撃して人間どもを倒し、最終的に果てても俺は構わない。だが、その後は? 増援は来なかった。つまり、国にこれ以上戦える兵は少ない。 そして、もし俺が本当に死んだら? そこで椅子に座っているだけのお偉いさんたちは人間に勝てる自信がおありのようで?」
挑発的な視線を周りに向ける。
怒りの感情が俺に突き刺さってきた。
「ふん、確かに勇者がもう一度でも現れれば我々は抗う術がない」
「何を仰りますか魔王様! 我らはコヤツがいなくとも――‼」
「黙れ! 今は我が話しておるのだぞ‼」
ビリビリと謁見の間が震えた。 さすが、魔王……。 その力は強い、全魔族の長となるには、これぐらいの力がなければ意味がなかった。
そんな魔王でも勇者と呼ばれる人種と戦い、勝てる保証などは一切ない。
「ヒッ」
今まで威勢のよいお偉いさんが、ビクッと体を縮こませてしまう。 もういっそのこと、ずっとそうしてくれていれば助かるのに。
「それで、ケトルよ。お前の意見を聞こうではないか、まさか無策で戻ってくるほどアホではないだろう?」
「確かに、無策で相手の失敗にばかり漬け込むような雑魚とは違いますよ」
周りでざわめきが大きくなりだした。 これは、現状できる最良の手段であり、これ以上戦争は続けることはできない。
だが、千載一遇のチャンスを逃したのは、確かだ。 その責任もきっちりととる。
「和平を結ぶのです。人間は勇者という切り札を失い、我々は領地に足を入れた。こっちに優位な条件でも飲み込むでしょう。和平を結んでいる間に、戦力を回復させてください! もし、万が一もう一度勇者が現れれば、次は勝てる保証はまったくない! されど、これ以上の戦争続行も不可能ならば、和平しかありますまい」
「それで? 続きがあるのであろう?」
ざわざわ――。
がやがや――。
騒がしい、大丈夫だ。 お前らの嫌いな嫌いな存在は消える。
「確かに、爺さんたちの言う通り、俺は最大のチャンスを逃した。この責任は大きい、だから、俺は今日限りで魔王軍から退き、以後一切魔国に関わらないと誓う!」
会場が笑った。 そうだ、この言葉が欲しかったのだろう? なんとか、人間に殺して欲しいと願っていた貴様らの願い、せめてもの願いを俺はこの場で交換条件として叶えてやる!
だから、魔王よ‼ 和平を結ぶのだ。
「ふぅ、なるほど、わかった。和平の件に関しては会議を開き決めるとして、ケトルよ……本当に良いのだな?」
「あぁ、もうね、疲れたよ。朝から晩まで終わることのない戦争に明け暮れるのは疲れた。どこか遠くで、大人しく余生を過ごしたいと思っている」
「わかった。では、ここで宣言する! 第四魔王軍所属ケトル・ブラーシェフに告げる。今、この時をもって、我が国からの追放を命ずる。もう二度と魔国の地を踏むのは許されない」
拍手がおこった。 パチパチという優しい感じではなく、喝さいと表現が相応しい。
割れんばかりの拍手が謁見の間を包み込んでいく。
「仰せのままに、ありがとうございます。そして、どうかお気をつけて」
最後に頭を軽く下げて、部屋を出た。
未だに鳴り止まない拍手を聞きながら、俺は外を目指していく。
「どちらまで?」
どこに隠れていたのか、ヘラオが現れて後ろをついてきた。
「どこかさ、遠くの杜にでも住もうかな」
「では、お供いたします」
「はぁ? 聞いていただろ? 俺はもう魔国の魔族じゃないんだぞ」
「それでも、私は坊ちゃまに着いていきます」
なんとも物好きなやつがいたものだ。 俺は一度だけ後ろを歩くヘラオに視線を送ると薄く笑ってしまう。
「好きにしな、それと、その呼び名は止めろって言っているだろ」
城を後に、俺たちは旅にでる。 そして魔族と人間との和平が成立したという噂が聞こえてきたのは、それから数カ月が経過したころであった。
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