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「ほう、なるほど、強いわけだ」
俺が近寄ると、まだ闘おうと動こうとしていた。
だが、俺の【覇気】にあてられては、十分に動けないだろう、されど、それでもプルプルと動こうとしていた。
「こいつは凄い、先祖返りか?」
女の子の額には小さな角が生えている。 そして、内側から感じられる魔力は魔族とは異なるものであった。
「文献でしか読んだことがないが、たしか人間側に渡った存在の一つに【鬼】という種族がいたが、絶滅してたと記録されているのに、こうして巡り合えるとは」
この子の子孫は、遠い昔、どこかで鬼と結ばれていたのだろう。
それが、何代も後の子孫になって突然現れる。 それが先祖返り。
「お逃げください!」
俺を必死に睨みつけてくる。 もう、この世界に存在することない鬼と人間の混種――そうか、お前もなのか。
そっと手を差し出した。 震える体に触れることなく、腰を下ろして目線を同じくして、こう告げる。
「怖いか? 大丈夫だ。 俺たちはお前の味方だ」
「な⁉」
困惑の表情に変わる。 だから、俺はその小さな体を抱きしめた。
華奢な感じ、少し力をこめると簡単に折れてしまいそうな感じがする。
だが、この温もりは力強い。 まだ生きたいと強く願っている証拠だ。
「大丈夫だ、大丈夫だ。怖かったな、もう心配ない」
覇気の効果が薄くなっていく。 徐々に力を取り戻したヘラオは慌てて俺の元へと駆け寄ってくる。
「ご無事ですか⁉」
「あん? 無事もなにも、みろよほら、寝ちまったぜ」
俺の腕の中には、今まで緊張していたのか、疲れ果てたのか、いずれにせよ。 この子にとっては限界だったのだろう。
覇気の効果が薄れると同時に、意識が遠のき、小さな寝息をたてながら寝てしまう。
「はぁ、本当に焦りました。 しかし、主の覇気は本当に凄いですね」
「まぁな、一応アイツから受け継いだ能力の一つだからな、かなり希釈されてしまっているが」
よっこらせっと、抱きかかえて俺は歩き出した。
「その人間、どうなさるおつもりですか?」
「人間? この子は違う、俺の家族だ」
「本気で言われているのですか?」
「俺がいつ、本気じゃないことを言ったことがある?」
大きなため息をつくヘラオ、そんな理解力があるところも好きだぜ。
「ケトル様のご意見に従いますがね、面倒はみてくださいよ」
「もちろん、当たり前だろ! さぁ、今日はボアの焼肉だぁ‼」
ヘラオは姿を変えていく。 ホブ・ゴブリンの姿に戻ると、手を二度パチパチと打ち鳴らした。
すると、どこからともなく、複数の魔獣が現れた。
「さて、お掃除頼みましたよ。 骨一本残さず頼みます」
合図を送ると、肉塊に群がり食事を始める。
さて、これから忙しくなるぞ、下を向くとスゥスゥと安らかに眠っている少女を見つめた。
「まぁ、二人も三人も一緒ってことだな」
俺たちは自分たちの寝床に戻っていく。
それが、俺とモルフィの出会いであった。
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