第一話

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静かに走り出した車の後部座席で 腕を組みながら外を眺める龍牙に 隣に座った楓は今日の予定を淡々と告げる。 「本日9:00から会議室Aで役員会議が入っております。 12:00からはシグマグループ会長の大竹様と ホテルアポロチアンで会食、 15:30からは経営戦略部長との会議、 17:00からはウェブにて ニューヨーク拠点から アメリカの新しく導入された 薬品規制についての報告がございます。 ご予定は以上になります」 「分かった」 そう返事をした後、龍牙は楓のほうをに顔を向けた。 目が合うと楓は少し気まずそうに逸らした。 すると龍牙は素っ気なく、 「体は?」 と尋ねる。 「昨日は大変ご迷惑をおかけしました。 大丈夫です」 楓が深く頭を下げると、 「そう」 と龍牙はまだ視線を外にうつした。 長く続く沈黙の背後で流れる ラジオのニュース。 それに耳を貸しているのか、 円高の話になると、 困ったように頭に手を添えた。 楓がチラリと目をやると、 男らしい彫りの深い横顔が朝日に照らされ、 もう何度も見ている顔なのに、 息を飲むほど綺麗で整った顔だと思った。
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