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『あれ、そういや侑希って婿に入ったんだっけ?』
「そうです。今は木下侑希です」
「別に継がなくてもいいって言ったんだけど、聞かなくて……」
『モリリンっぽいねー。あ、今はモリリンじゃないのか……侑希だから……ユッキーだね!』
なんか夢の国のキャラクターみたいだな、と羽原君が苦笑している。
そうなのだ。彼は長男で、わたしは守永家に嫁ぐので守永さくらになると思っていたのに、侑希さんが「うちには弟の大希がいるわけだし、木下の姓は俺が継ぐよ。というか、継ぎたい」と言ってくれたのだ。親戚もいるわけだし気にしなくていいよと言ったのだが、如何せん甘いマスクを被りながらも頑固で強引な一面がある侑希さんが引くわけもなく、守永家とも話し合いを重ねて、侑希さんが家ごと木下を継ぐことになったのだ。
申し訳ないと思う反面、継いでくれてよかったなと思う。木下姓がなくなったからといって家族との思い出まで消えるわけではないが、もし自分が『守永さくら』になって木下姓が完全に途切れてしまっていたら、両親と妹の3人が存在していなかったことになる気がして、悲しい思いをしていたかもしれなかった。本当に侑希さんには頭が上がらない。
『つーかもったいぶってないで早く見せろよ。俺だけだろ、見てないの』
しびれを切らしたように羽原君が莉衣菜ちゃんを押しのけて画面いっぱいに映った。どこにいるのか探しているのだろうか。
『そうだよ、ヒロ君だけ仲間外れだよ。莉衣菜、直接見たもんねー』
『うるせぇ得意気になんな! こら、さくらも侑希も、インカメラじゃなくてアウトカメラにして早く見せろ!』
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