花火大会

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「おう。さくらと一緒の時に話そうと思ったんだが……まぁいいや」  羽原君はそう言うと、1枚のA4の紙を差し出してきた。 「莉衣菜(りいな)がさ、これ、4人で行かないかって」  受け取って見た用紙には、音が聞こえてきそうなほど迫力のある写真をバックに『第72回納涼花火大会』という文字が躍っている。今度の日曜日に近所で開催される、花火大会の案内のチラシだった。 「莉衣菜が夏休みが空けたら忙しくなるし、国試受かったら来年から看護師として働き始めるから、時間が合う今のうちに思い出を作りたいんだと」  莉衣菜ちゃんというのは、この病院の隣にある看護専門学校の学生で、このカフェのアルバイトだった子だ。羽原君の彼女でもある。そして、わたしの大親友だ。今はわたしは社員として働いているが、少し前まで莉衣菜ちゃんと同じアルバイトだった。年齢はわたしより4歳下だが、莉衣菜ちゃんの方が先に働いていたので、経歴は彼女の方が上だ。感情が豊かで、小動物みたいにとっても可愛い。白衣の天使と呼ばれる看護師になるために生まれてきたのではないかと、わたしは思っている。今彼女は夏休み期間中だが、最終学年のため来年の国家試験に向けて本格的に勉強を始めるということで、アルバイトを辞めた。かなり寂しいが、夢に向かってひた走る親友を、わたしは心の底から応援している。 「莉衣菜曰く、『ダブルデート』らしいぞ」  金髪ピアスのぱっと見不良が、少し恥ずかしそうに言うので、笑ってしまった。 「いいね、その企画。守永さんにも話してみる」 「おう、頼むわ」  そのまま羽原君はレジにいた他の社員さんと交代した。  貰ったチラシに目を落とす。守永さんと、初めての、花火大会。
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