花火大会

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「さくらって、ココア王子と付き合うようになってから、なんか変わったよな」  店内に2人きりになって、羽原君がそんなことを言い出した。悪口を言われているのかと、わたしは眉根を寄せる。 「あ、いい意味で、な。クールなさくらが、感情を表に出すようになった」  今だってニヤニヤしてる、と指摘されてわたしは羞恥心に包まれた。顔から火が出そうなほど熱くなる。  どう反応して良いか目を泳がせていると、「さくらが幸せそうで何よりだよ」と羽原君は笑った。  守永さんと付き合う前は、両親を事故で、妹を病気で亡くしたわたしに生きる希望などなかった。1人になったわたしは作った笑顔を貼り付けて、淡々と働く木下さくらだったのだ。  そんなわたしを変えたのが、守永さんだった。  毎朝ココアを買いに来る彼とは顔見知りというだけの関係だったのに、優しすぎる彼と接していくにつれ、友だちになり、好きな人になった。聞き出し上手の彼にまんまと嵌められ、全部をさらけ出したわたしは、『人偏に有る希望』という名前を持った守永侑希さんと一緒なら、生きていける気がして、閉じこもっていた殻を突き破った。その結果、クールだと言われていたわたしは、感情が表に出やすい単純な奴になったようだ。  それを幸せそうだと揶揄するということは、羽原君も幸せなのだろう。  それを言ってしまうと彼は照れて怒り出す気がしたので、わたしは「ありがとう」と微笑むにとどめておいた。
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