天国のような地獄

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一度くらい人生を賭して何かに打ち込んでみたかった。 それがきっと今なのだろうと思い、暗闇の中ディスプレイに映る応募ボタンをクリックした。 彼とは約3年間付き合った。元々は同じ部署に同時配属された同僚で、仕事について相談したりされたりしているうちに距離が縮まって…というありきたりなスタートだったが、この恋が叶うなんて奇跡だった。3年付き合えるくらいには相性が良かったし、これからもずっと一緒にいられると思える付き合いをしていた。つもりだ。 いつの間にかこちらからの連絡には返信がなくなり、目が合うこともなくなった。家の合鍵は、会社ですれ違ったときに渡され、関係が終わったのだと認識した。 噂に聞いた限りだと、一緒に出張に出たユミちゃんとよい仲になったらしい。ユミちゃんは依然から彼を狙っていたとかいないとか。彼との付き合いは社内では内緒にしていたから、聞きたくもない噂が空気みたいにまとわりついてくる。 上司がそんな状況を知ってか知らないでか私が部署を異動することとなり、社内でも厳しいといわれる営業職に就くことになったのだが、びっくりするほど契約をとれず、成果がいつまでも目に見えない状況についにメンタルがやられ休職を選んだ。 1DKの部屋でYouTubeをBGMにSNSを流し読みする時間が続く。自分のために食事を作ることも面倒で、配達を頼んではベランダに設置しているごみ袋が増えていく日々。人に会わないからいいかとお風呂にも久しく入っていない。 部屋で完結してしまう世界に居心地の良さを感じながらも、社会から自ら距離をとっている自分がなんとも惨めに思え、休職を経た退職も視野に入っていたころだった。
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