黄昏の魔導士

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 エリシテルは深い息を吐いた。目を閉じて、クッションの背もたれに沈み込む。 「ミハさん、その戸棚の中に魔力封じの腕輪が入っているわ。取ってちょうだい」  ミハがとぐろをまいた腕輪を差し出すと、エリシテルはその先をつまんだ。再びリボンのようにほどけた腕輪を、左手首に近づける。腕輪は狡猾な蛇のように手首に巻きつき、硬化した。 「これを外すためには、ちょっとした意識の集中が必要なの」  エリシテルは腕輪をさすりながら言った。 「わたくしがこれを外すことは、もうないでしょう。アズモント、後は頼みましたよ」  ミハはエリシテルが再び横たわるのを手伝った。枕に頭を載せると、エリシテルはスミレ色の瞳でミハをじっと見た。 「次に目覚めるときにはもう、今のわたくしではない。それが禁術を使った代償なの」 「エリシテルさま……」 「たぶん、もっとずっと症状が進んでいると思うわ。ご迷惑をおかけすると思うけど……本当に、ここにいても良いのかしら?」 「……何度も言いましたよね。私たち、迷惑なんて思ってないって」  ミハの言葉に、エリシテルはうっすらと笑みを浮かべた。 「今朝、あなたが山に行っている間に、また逃げ出そうかとも思ったのよ。でも、あなたと子どもたちがそう言ってくれたから……ちゃんと向き合って、話をしようと思えました。ありがとう」  エリシテルの目は徐々にくもり、目蓋が下りた。ミハはまだしばらく、エリシテルの手を握っていた。そばにはアズモントが立ち尽くしている。 「そういえば……エマと言う人を知っていますか?」 「エマさんは、師匠の娘さんだよ。若くして亡くなられたけどね」 「娘さん……そうですか」  アズモントはそれ以上何も説明せず、ミハもたずねなかった。二人は静かに眠るエリシテルを見ていた。 「ミハ姉! イシク兄ちゃんが帰ってきたよ! ダム兄ちゃんたちも一緒だよーっ!」  部屋の外から、元気いっぱいの子どもたちの声が聞こえてきた。
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