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朝食後、ミハは日当たりの良い部屋に老女を連れていき、そこで勉強をする子どもたちに後を任せて外に出た。
現在、孤児院には十四人の子どもがいる。ミハは子どもたちを三つの班に分け、日替わりで家事や勉強などを教えていた。
この日は子どもたちを連れて山菜採りに行く計画を立てていたが、老女を置いていくのは不安である。結局、外で運動をすることにした。まずは体操で体をほぐし、幼い子どもたちのために鬼ごっこをする。そのあと、年上の子どもたちと組み手の稽古をした。
「今日はここまで。風邪をひかないように、汗を拭いて着替えなさい」
子どもたちが歓声を上げて散らばっていく。それを見送ると、ミハは木製の剣を取り出し、自身の鍛錬を始めた。基本の形に構え、体に染みついた動きを一つ一つなぞっていく。
剣を振り始めると、孤児院の経営のこと、子どもたちの将来のこと、それに奇妙な老女のことは頭から消え去った。体と心のバランスが整い、全てがあるべきところに収まっていくような気がする。ミハは肉体の動きに没頭した。
一通りの形を終え、汗を拭いながら改善点を思い返していると、後ろに気配が立った。
「あなたは騎士だったの?」
振り返ると老女がいた。その顔には好奇心が浮かんでいる。
「まさか。私は女ですし、騎士団に入れるような家柄でもありません」
「でも、訓練は受けたのでしょう? そういう動きでした」
「……六年ほど前まで、王都の警ら隊で働いてました」
ミハは草むらに腰を下ろした。老女が隣に立つ。
「十六歳のとき、王都に上ったんです。下宿先に、警ら隊の事務仕事をしている女性がいて、面倒を見てくれました」
「まあ、良かったわね。親切な方に出会えて」
「ええ。本当に幸運だったって、すぐわかりました。そうでない人たちをたくさん見たから」
「……」
「奥さまは覚えてますか? 王国騎士団と『護国の魔導士』を筆頭とする魔導士たちが、ようやく魔族を押し戻すことに成功していたころです。街には、親を失った子どもたちが大勢いました。私は警ら隊の一員として、そういう子どもたちを取り締まった」
「あなたは心苦しかったのね。それが孤児院を始めた理由?」
「ええ。どうせいつまでも体力勝負の仕事を続けるわけにはいかないし。三十歳になったのを機に、なけなしの退職金でここを買って、子どもたちと暮らし始めたんです」
「ミハさん、あなたは素晴らしい人なのね」
ミハは顔を上げた。自分より年長の者からこうして労わられるのは、いつぶりのことだろう。
「あっ、奥さま!」
子どもたちが駆け寄ってきたことで会話は中断された。老女を見失い、慌てて探しに来たらしい。子どもたちにかしずかれて建物に戻る老女の姿を、ミハは黙って見送った。
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