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「ミハ姉、兄ちゃん、行ってらっしゃーい!」
ミハとイシク、ヤンの三人は、子どもたちに見送られながら孤児院を出発した。ミハとイシクはなめした革の束を、ヤンは山菜やキノコなどの加工品をそれぞれ背負っている。
歩いて二日ほどの距離に、この一帯では比較的大きな街がある。ミハたちは山で取れたものを定期的に売り、家計の足しにしていた。エリーを拾ってからしばらく遠出を控えていたため、今回は久しぶりの行商だった。
「ダム兄ちゃんに会えるんだね! 元気かなあ」
初めて遠出をするヤンは興奮していた。街には、孤児院を出て就職した仲間もいる。ミハは、今回の旅でヤンの就職先を探そうと思っていた。頭の回転が速くて人懐っこいヤンは、商いを覚えれば成功するかもしれない。もちろん一番は本人の希望を尊重するが、職人志望の場合、弟子入りは早い方がいいのだ。
「あんまりはしゃぐなよ。バテちゃうぞ」
穏やかにさとすイシクはもう十六だ。ミハは彼にも数年前から就職の話をしていたが、「俺は孤児院を支えたいから」と断られていた。実はイシクが支えたいのは、一つ年上のナナなのではないかとミハはにらんでいる。
三人は山中で一夜を明かし、翌日の昼に街に到着した。それまで元気いっぱいだったヤンは、大通りに入ったとたん黙り込み、イシクの影に隠れてしまった。
「ん、どうした?」
「人がいっぱいで気持ち悪い……」
ミハとイシクは苦笑した。この辺りで一番大きいといっても、都市部とは比ぶべくもない田舎町なのだ。それでも、山の静かな生活に慣れた子どもには十分強い刺激になるらしい。ミハが孤児院の外で就職先を探すのには、子どもたちの世界をもっと広げてやりたいという気持ちもあった。
すっかり人酔いしてしまったヤンは、先に孤児院の卒業生の元に預けることになった。街で店と所帯を持つ青年にヤンを任せると、二人はなじみの商人を訪ねた。
「オヤジさん、久しぶり」
「おう、ミハさんか。イシクはでかくなったな」
ひげ面のオヤジは、早速持ち込みの品を鑑定し始めた。イシクは店内を眺めまわしている。ミハはオヤジの手元を見ながらたずねた。
「ひと月くらい前なんだけど、よその馬車を見かけたって話を聞いてない?」
「よそ者? 聞かねえな。こんな田舎なら目立ちそうなもんだけどな」
オヤジの返答に、ミハは首をひねった。言動や物腰から、エリーは王都かその周辺の都会出身なのではと推測している。そこから『姥捨山』まで連れて行くなら、この街は必ず通るはずなのだ。
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