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心躍る出来事だとか、深く心揺さぶられる出来事だとか、刺激のない毎日に飽き飽きしていた。
自分の心の機微に疎くなったのはいつからだろう。そして、それは自分に対してだけではなく、他人の心の機微にも気づきにくくなっていくのと等しいことだということもわかっている。
だけれど、心が動かない。沈むことはあっても弾むことはない。
そうなったのはいつからだったのだろう。
「麗花」
私を呼ぶ声が遠くから聞こえる気がする。私が今となって考えると無鉄砲だったけれど、無敵で一番輝いていたであろう時期。賑やかな友人に囲まれ過ごした高校時代。もちろん嫌っていたクラスメイト達もいたことには気がついてはいたけれど、それを気にしないくらいには、私は無敵だった。
「麗花、今日はどこに行く?」
友人の一人である智美は、通学鞄を持ち、私にそう問いかける。
「カラオケとかは? 男子も何人か呼んでさ」
「いいねー! 明日香達にも声かけてくる!」
私の言うことは絶対だった。誰も反論する者はいなかったし、それを疑問に思うような友人もいなかった、と思う。
玄関に向かって歩いて行くと、ワラワラと数を増やしながら、友人達が私を囲んで会話をしている。時には大袈裟に笑い、教師やクラスメイトの悪口を言い、私は適当に相槌を打つ。それが私には堪らなく心地よかった。まるで世界の中心に自分がいるようだった。
だから、社会人になってからツケが回ってきたのだと思う。
私はかつての取り巻き達が一人もいない大学に進学し、それでもそれなりにコミュニティを広げ、学生時代をやり過ごした。就職活動もろくにせず、不真面目な性格が災いして、結果は散々なものだった。結局、アルバイトとして働いていたアパレルショップの店員として続けて働くことになり、私はそのことをすんなりと受け入れた。幸い、実家暮らしであったため、私は自分の使うお金を稼げばそれで良かった。
真面目に勉学に励んだ者や、資格を取った者、就職活動に真面目に取り組んだ者達は、いい会社に就職し、私より責任は重いだろうが、当然に輝いて見えた。
それでも私が卑屈にならなかったのは、高校時代の友人達のおかげだった。地元に残った友人達とは定期的に会い、そして、私を高校時代のように絶対的な存在として扱い続けた。皆、私よりもいい会社、いい給料に恵まれているのに、だ。私もそのことを当たり前のように受け入れていた。
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