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お元気ですか。
そう書き始めるのもなんだか違う気がします。
だけど、あなたに話しかけるには、月並みの言葉しか思いつきませんでした。
もう何年会っていないでしょう。今数えてみましたが、最後にあなたに会ってから、15年の月日が経っていたことに気が付きました。時間が流れるのは早いものですね。その間、私は変わらないこともあったし、変わったこともありました。きっとあなたもそうなのでしょう。
あなたとは、私達がまだ小学生の頃出会いました。出会ったといっても、話したことなど数えるほどしかありませんでしたね。それは、私がひどく人見知りだったからです。私はその頃クラスでも浮いていて、授業で当てられる以外、一言も言葉を発することなく家に帰る日が多いくらいでした。
今ではクラスメイトの名前はおろか、顔さえも思い出せない人のほうが多いくらいです。あなたはどうでしょうか?
さて、話がそれましたが、私があなたに読まれるかも分からない、読まれない可能性の方がよっぽど高い手紙を書いているのには理由があります。あなたも、わたしまでとはいかずとも、そこまで目立った男の子ではありませんでした。学校の授業で、誕生日のクラスメイトに手紙を書こうという課題があったのを覚えていますか?
人気者のクラスメイト達がスポーツができる、勉強が得意、優しい、真面目、などと褒め称え合っているなか、私とほとんど言葉を交わしたことのないクラスメイト達からの手紙には字がきれいだとか、そういったことしか書かれていませんでした。そして、私はそこまで文字がきれいなわけでもありませんでした。私は特にがっかりすることはありませんでした。だって、知らない人のいいところを褒めることなど不可能だからです。私だって他のクラスメイト達に宛てての手紙を書くとき、こっそり隣の席の人の内容を読んで、言葉を変え、そのまま書いただけでした。
でも、あなただけは違いました。
笑ってるだけでいいよ。
小学生男子特有の不器用な文字で、私に宛てた手紙にはそう書かれていました。30人ほどいたクラスメイトからの手紙の束の中で、そのメッセージだけが私には光って見えました。正直、うれしくてうれしくて、仕方がありませんでした。勉強もできない、スポーツもできない、友達もいない私が初めて言われた言葉だったからです。
でも、私は急には変わることはできませんでした。そのうちに、あなたは卒業を待たずに、家庭の事情で私の知らないところへ行ってしまいました。両親がヒソヒソ話しているのを盗み聞きしてしまったのですが、きっとあなたも辛い思いをしていたのでしょう。大人達の言うことは必ずしも正しいとは限らないし、あなたが不幸だったとは思いません。根も葉もない噂だったことを願っています。
あの時、私は変わることはできませんでした。
でも、それから何年かの時間が流れ、今では深い付き合いの友達が何人かいます。そして、大事な人もできました。友達の何人かは、私のことを、よく笑う、と言います。笑顔が素敵だね、と声をかけてもらえることも多くなりました。
私が笑う時、いつでも、あなたの言葉が根底にあります。あなたはなんとなく書き綴った言葉だったかもしれないけれど、時間差ではありましたが、私にとっては人生を変えた言葉でした。
自分語りが多くなってしまいましたね。
あなたは今、幸せですか?
私は幸せです。大好きなたくさんの人達に囲まれて、毎日楽しく暮らしています。図らずとも、私の人生に大きく関わってくれたあなたに、感謝の意と、そして、愛を込めて、この手紙を書きました。
どうか、どこかで元気で、健やかに、あなたも笑っていてください。
もう会わないあなたへ。
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