1 和歌(中一)の場合

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* * * *  和歌は家庭科準備室1の前で硬直していた。香奈美は合唱部の見学に行くため、別行動となってしまったのだ。  本校舎から少し離れた場所にある家庭科準備室は、人の声がほとんどせず、静かな空気が漂っていた。  どうしよう……やっぱり一人だと怖くなってしまう。  香奈美ちゃんと一緒に合唱部を見に行っても良かったかな……でも中学では小学生の時とは違う自分になりたかった。人に流されるんじゃなくて、自分がやりたいことをやろうって決めたじゃない。だとしても、持ち合わせた性格は小心者だし、いきなり変わるなんて無理な話だった。  どうしたらいいんだろう……その時突然背後から肩を掴まれる。 「和歌ちゃん見っけ。よし、中に入ろう」 「えっ」  それが誰かもわからないまま、その人は目の前のドアを開けて、和歌の背中を押したのだ。  すると中では部活紹介の時に話をした先輩達がいた。並んだ棚の中に歴代の生徒達が作ってきた作品が並んでいる小さな部屋は、どこか懐かしい感じがした。  パッチワークキルト、ブラウス、セーターなど。和歌は思わず目を奪われ、視線をぐるりと一周させる。 「ひーちゃん、和歌ちゃん連れてきたの?」 「いんや、ドアの前で固まってたから」  声のした方を向くと、昼休みに教室にやってきた長い三つ編みが印象的な高校生がたっていた。 「和歌ちゃんいらっしゃ〜い。来てくれてありがとうね」 「い、いえ……」  和歌は窓際の真ん中の席に座るよう促される。そして和歌を囲むように前はたちが席を座り、彼女をじーっと見つめた。 「一応自己紹介しておくね。私は部長の鈴本美晴、高校二年。ばりちゃんって呼んでくれていいよ。っていうか、入部してくれたらめちゃくちゃ嬉しいけど」  やっぱり部長さんだったんだ。はっきりした物言いに、和歌は思わず胸が熱くなる。私もこんなふうに話せたら良いのにな……。 「私は副部長の後藤木乃香。ばりちゃんと同じ高校二年だよ。こんちゃんって呼んでね」 「は、はい……」  とても温かい笑顔に、緊張していた心が解れていくようだった。 「後ろにいるのが高校一年の大岸日和」 「ひーちゃんでいいよ。ハンドメイド部は堅苦しい雰囲気じゃないし、楽しくがモットーだしね」 「そうそう」  気さくな先輩達の雰囲気にホッとしつつ、ブレザーとセーラー服の間に距離を感じてしまうのも事実だった。  まだクラスに友達だって一人しか出来ていない。それなのに、高校生の先輩しかいない部活でやっていけるのかな……不安ばかりが沸き起こり、和歌は次の言葉が見つからなかった。
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