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その様子を察し、美晴は和歌に笑いかける。
「大丈夫だよ、怖がらなくて。さっき棚の作品見てたよね。和歌ちゃんは刺繍が得意って言ってたけど、今って何か持ってたりする?」
コクリと頷いてからカバンを開け、中からピンク色のハンカチと、麻の素材のポーチを取り出す。よく見てみると、ハンカチは縁部分に唐草の刺繍が施され、角の部分に花とイニシャルがあしらわれていた。ポーチにはクロスステッチでマトリョーシカが三体描かれている。
「わっ、かわいい!」
「すごい。これ全部一人でやったの?」
「……家にいてやることがなくなったりした時、刺繍をしているとなんだか気持ちが落ち着いて……」
「図案はどうしてるの?」
「あの……今はネットたくさん載っているので……」
三人に話しかけられても、つい俯いてしまう。その姿に三人は顔を見合わせて微笑み合った。
「和歌ちゃんさ、もしかして小学校の時に何かあった?」
「えっ……どうして……」
和歌が泣きそうな顔をしたため、三人はどこか納得したように頷く。
「あぁ、やっぱりね。なんかそんな感じがしたんだ」
「和歌ちゃん、どうしてもこの学校に行きたいって思って受験したんじゃないでしょ? どちらかと言えば、地元の学校に行きたくないから仕方なくじゃない?」
言葉にならなかった。だってその通りだったから。
「やっぱりそうなんだ」
「まぁうちの学校に中学から来る子って、ほとんどがその理由だけどね」
「確かに。残り二割は運動部狙いだし」
「あの……それって……」
和歌の表情は明らかに困惑していた。木乃香は安心させるように笑いかけた。
「ほら、うちの学校って偏差値が低い女子校でしょ。言わば誰でも受験すれば入れるんだよね」
「普通受験って必死に勉強して、偏差値の高い学校を目指すけど、うちの学校はそれとは逆の『とにかく地元とは違う学校に行きたい』人たちが集まるんだよ。さて和歌ちゃんに問題です。違う学校に行きたい理由って何だと思う?」
木乃香が提示した問題に、和歌は答えが一つしか見つからなかった。
「……いじめ……とかですか?」
「う〜ん、まぁほぼ正解。というか、悩みは人それぞれだからねぇ。でも和歌ちゃんの理由はそれだったのかな?」
自分から過去の話をしてしまったことに苦しくなり、和歌の目からは涙が溢れ出した。
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