1 和歌(中一)の場合

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「私……よくわからないんです……ある日学校に行ったらみんなに無視されて……話しかけても返事をもらえなくて……休み時間も、移動教室もひとりぼっちで辛くて……だから学校に行きたくなくなったんです……。でも中学には行かなきゃいけない……でもこのまま地元の学校に進学したら、同じような状況が続く気がして怖くなって……」 「それで受験したの?」  ハンカチで涙を拭いながら、嗚咽を堪え、和歌は頷く。 「それは辛かったね……よく今日まで頑張ってきたじゃない。私たちは和歌ちゃんの頑張りを讃えるよ」 「そうそう。行きたくなければ行かなくて良いんだよ。なんで自分から地獄に身を投じるのかって話だよね。私も不登校だったから、今この学校に来て良かったなぁって思ってる」  美晴の言葉に、和歌は目を見開いた。 「先輩も……ですか?」 「私だけじゃないよ。たぶんクラスの半分以上が何かしらの辛い経験があるんじゃないかな。そんなふうには見えなかったりするけどね。なんかうちの学校って、そういう子たちが自分を取り戻すために入学しているはずなんだけど、なんかのんびり生活してる感じ。みんな辛い経験をしたからこそ、さっぱりした性格の子が多いかも」 「かなりマイペースだよね」  三人は急に爆笑し始めた。 「うちの学校って、章愛学院だからイニシャルがSGでしょ。すぐ近くの男子校からなんて呼ばれてるか知ってる?」 「知りません……」 「聞いて驚くなかれ。スーパー(S)ゴキ(G)よ。いたいけな女子に対してゴキはないよねぇ」 「本当。でもね、みんな傷を持って入学するけど、卒業する時はすごい逞しくなってるんだ」 「正にゴキ並みの強さ」 「そうそう。踏まれても死なないくらいの精神力」  驚いたように口元を手で押さえた和歌を見て、美晴は優しく微笑みかける。 「確かに男子がいないから恋とかはないけど、気兼ねなく自分らしく生活出来ると思うよ」 「大事なのは、自分がどうなりたいか……ってよく先生が言うよね」 「そういえばこの間、数学の浜やんが『君たちにはわからないだろうけど、男のロマンっていうのは、砂浜の中から錆びたナイフを見つけるようなものなんだ』って熱く語ってた。『君たちもロマンを見つけたまえ』だってさ」  そして三人は更に大爆笑する。 「あぁ、ごめんね。話がずれちゃった。この学校、先生たちも個性的で面白くてさ」 「私ね、スーパー・ゴキって結構気に入ってるんだ。どんな場所でも強く生きていけそうじゃない? しかも苦しい経験をした子は、人にはしないと思う」 「だから和歌ちゃんも自分らしく生活していけるといいね。それにはハンドメイド部に入るのも良いと思うな」  その瞬間、和歌は思い切り吹き出して笑い始めた。辛さから溢れた涙が、笑いが止まらなくて溢れる涙へと変わっていく。  来る時はあんなに不安だったのに、今はすごく温かい気持ちに包まれてる。自分だけじゃないことが心強くて、同じ痛みを知っている人に出会えて安心した。 「私……先輩たちとハンドメイドしたいです。入部してもいいですか?」  和歌が言うと、三人は両手を上げて踊り出す。 「やった! これでハンドメイド甲子園に一歩近付いた〜!」  ハンドメイド甲子園? 和歌の中で疑問符が浮かぶが、楽しそうな様子に水を差せず、とりあえず笑顔で首を傾げた。
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