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* * * *
翌日、学校に登校した和歌は大きく深呼吸をしてから、前の席に座っていた香奈美の肩を叩いた。
「お、おはよう」
自分から声をかけるのは初めてだったので緊張したが、香奈美の笑顔を見ると安心した。
「あっ、おはよう。昨日は一緒に行けなくてごめんね。大丈夫だった?」
「うん。大丈夫。私、ハンドメイド部に入ることにしたんだ」
「そうなんだ。私はやっぱり合唱部にする。始まるのが楽しみだね」
和歌は意を決して口を開く。心臓が早鐘のように打ち付けるのを感じた。
「あの……私あまり人で話すのが得意じゃなくて……うまく話せていなかったらごめんね」
香奈美はキョトンとした顔で和歌を見ながら、どこか安堵したような表情になる。
「実は私も。ずっとドキドキしてるんだよ。ちゃんと話せてるから不安だったんだ。小学校もほとんど保健室にいたから……」
「えっ、そうなの? 私もだよ」
和歌がびっくりして声を上げると、二人の周りにクラスメイトたちが集まってくる。
「今のって本当? 実は私もそうなんだ」
「えっ、私もだよ」
気付けばクラスのみんなが、何かしら辛い経験をしてきていることがわかる。
先輩たちの言っていた通りだった。自分だけじゃないと思うと心強くなった。
* * * *
放課後になり、家庭科準備室のドアをノックして中に入ると、三人の先輩たちとともに白衣を着たおばあちゃん先生が座っていた。
和歌が目を見開き後退りをすると、美晴が笑顔で手招きする。
「和歌ちゃん、こちら顧問の絹山竹代先生。先生、新入部員の三池和歌ちゃんだよ」
先生が大きく頷いたので、和歌は慌ててお辞儀をした。初めて見る先生だったので、緊張が体中を駆け巡る。
「あら、良かったじゃない。じゃああと二人を探しましょうね。ハンドメイド甲子園のエントリー受付、今月いっぱいでしょう? ところで三池さんは何が好きなの?」
「刺繍が好きです」
「あら素敵。みんなで良いものを作れるといいわね。じゃあ私は職員室に戻るわよ」
「はーい。竹代ちゃん、またね〜」
先生は立ち上がると、みんなに手を振って部屋から出て行った。和歌の心臓はまだ大きく跳ねていた。
「あの……竹代ちゃんなんて呼んでいいんですか?」
「ん? 大丈夫だよ。先生がそう呼んでって言ってるから」
和歌は目を見開き、初めての感覚にただただ驚くばかりだった。
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