2 穂波(中二)の場合

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* * * *  チャイムが鳴ってお昼休みになったものの、前田(まえだ)穂波(ほなみ)は暗い表情で席に座ったまま、カバンからお弁当を取り出す。  ほかのクラスに行くことも考えたが、先生からクラスで食べるように言われていたし、その約束を破る勇気はなかった。  冷たく味気ないお弁当を一口食べる。美味しいと感じる心はどこかにいってしまったようだ。  その時だった。教室の前方のドアが開き、高校生三人と中学生一人がひょっこりと顔を出す。賑やかだった教室が、一瞬で静まり返る。  しかし三人の高校生は気にも止めずに、教室の中をキョロキョロと見回した。すると中学生の女の子と穂波の目が合う。 「ばりちゃん先輩、あの人です!」  その子は突然穂波を指差したのだ。穂波は驚いたように固まってしまう。  よくやったとでも言わんばかりに、高校生は中学生の頭を撫で回した。それから全員が穂波の元へやって来る。 「突然ごめんね。私たちハンドメイド部なんだけど……」  その時三つ編みの高校生が、穂波のカバンについたウサギの編みぐるみのキーホルダーを見つけてニンマリと笑った。 「これ作ったのってあなた?」 「は、はい、そうです」  それは穂波が生まれて初めて作っ編みぐるみだった。マフラーや帽子ばかり編んでいた穂波に、近所のおばあさんが教えてくれ、それ以降穂波は定期的におばあさんに様々な編み物を教えてもらっていたのだ。 「やっぱり。わかぱんお手柄じゃん」  高校生に褒められ、"わかぱん"と呼ばれた中学生は嬉しそうに微笑む。何が起きているのかわからない穂波は、困ったようにあたふたしていた。    私、何かやっちゃった? 記憶にないんだけど……穂波は緊張と戸惑いが入り混じった、妙な感覚に襲われていた。 「あのね、聞きたいんだけど、もう部活って決めた?」 「いえ……去年と同じ放送部でいいかなぁと思っていて……」 「ちょっと待って。『でいいかなぁ』ということは、『じゃなくてもいい』ってことだよね?」 「えっ……まぁ……」  鋭いところを指摘され、穂波は口を閉ざす。すると全員がニンマリと笑い、穂波の顔をじっと見つめた。
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