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横田睦月は次の授業の準備をしていると、突然視線を感じる。出席番号が最後の睦月は、必然的に席も一番後ろだったため、人と話さなくてもやっていけていた。
しかしパッと振り返ると、トイレから戻ってきたタイミングだったらしい日和が、じーっと睦月を見ていたのだ。
「な、何か?」
「うん、それが気になって」
「それ?」
睦月は日和が指差す方に目を向ける。彼女が見ていたのは、睦月のカバンについていた羊毛フェルトで作ったクマの人形だった。
「それって自分で作ったの?」
「あぁ、そう。あまり上手くはないんだけど」
戸惑いながら睦月が言うと、日和は怪訝そうな顔で睦月を見た。
「……これが上手くないって……そんなわけあるかい。すごい上手じゃん。ねぇ、部活って決めた? オススメの部があるんだけど」
部活。そう聞いて睦月の顔が曇る。中学の時に揉めた相手とは、同じ部活に所属していたため、あまり良い印象はなかった。
「部活か……入る気ないんだけど……」
「あれ、うちの学校って強制的に所属なんだよ。知らなかった?」
「……知らなかった」
「まぁいいや。ハンドメイド部とか興味ない?」
ハンドメイドという言葉に、睦月の心は揺れた。羊毛フェルトは睦月の趣味であり、特技だったからだ。
確かに好きなことを出来るのなら、きっと楽しいに違いない。でも引っかかることもあった。
「ハンドメイドは好きだけど、一人でやりたいんだ」
「あぁ、わかるわかる。でもみんなそうだから大丈夫だよ。だって作ってるものバラバラだから。興味が湧いたらみんなでやることもあるけど、基本は一人で作ってるよ」
「……例えばどんなものを作ってるの?」
「そうだな。私はビーズでアクセサリーを作るし、先輩二人は洋裁と和裁。新入部員の中学生は刺繍と編み物だって」
「見事にバラバラ」
「そうそう。でもそれで良いんだよ。やりたいことをやってた方が楽しくない?」
「まぁ……そうかな……」
それでも睦月は返事に困った。やる気のないことへの気持ちを上向きにするのは難しい。その時に始業のチャイムが鳴る。
「放課後って暇?」
「一応……」
「じゃあ見学においでよ。百聞は一見にしかずって言うじゃない?」
全く興味がないわけではなかった。睦月は少しの間黙ってから、小さく頷いた。
「じゃあ掃除終わったら一緒に行こう」
この学校に入って一週間。こうして誘われたのは初めてだった。
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