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睦月は日和と一緒に家庭科準備室まで歩いていた。
まさか大岸さんと話す日が来るなんて思わなかった。しかもきっかけが羊毛フェルトだから、世の中何が起きるかわからなかった。
「大岸さんは中学からこの学校なんだよね?」
「うん、そう」
まだ完全に把握しきれていない校舎の中を、日和の後について進んでいく。
「なんで中学から入ろうと思ったの?」
「ここってバスケが強いじゃない? 私も小学生の時にミニバスでかなり頑張ってたから、もしかしたら県大会優勝とか出来ちゃうかも⁈ みたいな安易な考えで受験しちゃった」
睦月は驚いたように目を見張る。元々スポーツをやっていたのか。
「へぇ……でも今はハンドメイド部?」
「実は中一で挫折しちゃってね。何しろ強豪校の先生は、欲しい生徒には直接スカウトに行ってるわけ。だからちょっとミニバスやってましたくらいじゃ、練習について行くのも大変だし、レギュラーなんて夢のまた夢」
「……ふーん……でもなんとなく挫折しちゃった気持ちはわかるかも……」
睦月が言うと、日和は彼女に微笑みかけた。隣の校舎に移動し、階段を昇り始める。
「この学校ってさ、偏差値低いし、なんでわざわざそんなところにお金を払って通うの? みたいなことを言われることもあるんだけど、地元の公立にはどうしても行きたくない子も中にはいるんだよ。わざわざ高いお金を払って中学に行くなんて贅沢かもしれないけど、ここの子たちは自分を守るためにこの学校に進学した子が多いのかなぁって気がしてる」
「自分を……守る?」
「そう。みんなそれぞれの理由があるんだよ。学校って、勉強するだけでも、友達を作るだけでもないと思うんだ。私は程よくサボりながら、やりたいことには一生懸命で、自分で生きていく力をつける場所だと思ってる。」
「……なんかちょっとサバイバルだね」
「でも強くなるよ。だから私はこの学校で救われたんだ。ほら、まず男子がいないじゃない。だからみんな力持ちだし、見た目とか全然気にしてないからガサツだしね。あっ、でも授業中によく腕の毛を抜いてるか」
そう言いながら、日和は声を上げて笑った。
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