3 睦月(高1)の場合

4/4
前へ
/47ページ
次へ
 話している間に家庭科準備に着き、日和はドアを開けた。 「ばりちゃーん、こんちゃーん、羊毛フェルトのスペシャリストを連れてきた」  窓際の椅子に座って本を読んでいた二人は慌てて本を閉じると、嬉しそうに立ち上がる。それを見て睦月は、その場の雰囲気に飲まれて頭を下げた。 「横田睦月です。よろしくお願いします」 「よろしくお願いしますってことは、入部確定でいいのかな⁈」 「えっ」  見学のつもりで来たのに、先輩二人の押しに負けて、睦月は思わず頷いてしまう。 「やった! これで六人揃ったからエントリー出来る〜!」  睦月は意味がわからず、日和の顔を見る。すると冷静に、 「部に昇格するのと、大会に参加可能になったから喜んでるだけだから気にしないで」 と答える。  しかしその中の言葉で、睦月は更に眉を寄せる。 「大会って何?」 「あぁ、ハンドメイドの大会があるんだって。エントリーに六人必要だったから、先輩たち躍起になってて。だから助かったよ、ありがとう」 「えっ、聞いてないんだけど」 「まぁまぁ、私もよくわかってないからさ。とりあえずハンドメイド部仲間として仲良くしようじゃないか」  日和は睦月の肩をポンポンと叩く。大事なことがあっさりと決まっていく感覚に、睦月は戸惑いを隠せなかった。 「あれ、もしかして新入部員さんですか?」  背後から声がしたので振り返ってみると、そこには中学生が二人立っていた。同じように瞳を輝かせ、手を取り合って喜んでいる。 「じゃあこれで大会に出られるんですね!」 「良かった〜!」  これはもう引き返せないじゃない……睦月が頭を抱えた時、ふと木乃香が机に置いた本の背表紙が目に入った。その途端、睦月は目を見開いて硬直する。 「あの……先輩、その文庫はもしかしてチョコレート文庫ですか?」  すると木乃香も衝撃を受けたような表情になる。 「もしかしても何も、これはれっきとしたチョコレート文庫だけど……」 「……ちなみに好きな作家さんはいらっしゃいますか?」 「……一人に絞れと言われたら、迷わず安沢井(あざい)(うらら)先生かしら」  木乃香の答えを聞いた睦月は、嬉しそうに両手で天を仰いだ。 「年下攻めの、社会人シリーズですね。あぁ、あの切ない感じがグッと来ますよね」 「そうなの。わかってくれる人が現れた〜! じゃあ睦月ちゃんは?」 「小暮(こぐれ)夕暮(ゆうぐれ)先生ですね、間違いなく」 「あらあら、睦月ちゃんはオメガバースがお気に入りなの? あれはキュンキュンするよね」  どうやらBL小説の話題で盛り上がっているようだが、読んだことのない四人は首を傾げる。  まぁ新入部員が一人入ったし、これで部として認められる上、大会へのエントリーも可能になったわけだ。これ以上喜ばしいことはなかった。  
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加