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話している間に家庭科準備に着き、日和はドアを開けた。
「ばりちゃーん、こんちゃーん、羊毛フェルトのスペシャリストを連れてきた」
窓際の椅子に座って本を読んでいた二人は慌てて本を閉じると、嬉しそうに立ち上がる。それを見て睦月は、その場の雰囲気に飲まれて頭を下げた。
「横田睦月です。よろしくお願いします」
「よろしくお願いしますってことは、入部確定でいいのかな⁈」
「えっ」
見学のつもりで来たのに、先輩二人の押しに負けて、睦月は思わず頷いてしまう。
「やった! これで六人揃ったからエントリー出来る〜!」
睦月は意味がわからず、日和の顔を見る。すると冷静に、
「部に昇格するのと、大会に参加可能になったから喜んでるだけだから気にしないで」
と答える。
しかしその中の言葉で、睦月は更に眉を寄せる。
「大会って何?」
「あぁ、ハンドメイドの大会があるんだって。エントリーに六人必要だったから、先輩たち躍起になってて。だから助かったよ、ありがとう」
「えっ、聞いてないんだけど」
「まぁまぁ、私もよくわかってないからさ。とりあえずハンドメイド部仲間として仲良くしようじゃないか」
日和は睦月の肩をポンポンと叩く。大事なことがあっさりと決まっていく感覚に、睦月は戸惑いを隠せなかった。
「あれ、もしかして新入部員さんですか?」
背後から声がしたので振り返ってみると、そこには中学生が二人立っていた。同じように瞳を輝かせ、手を取り合って喜んでいる。
「じゃあこれで大会に出られるんですね!」
「良かった〜!」
これはもう引き返せないじゃない……睦月が頭を抱えた時、ふと木乃香が机に置いた本の背表紙が目に入った。その途端、睦月は目を見開いて硬直する。
「あの……先輩、その文庫はもしかしてチョコレート文庫ですか?」
すると木乃香も衝撃を受けたような表情になる。
「もしかしても何も、これはれっきとしたチョコレート文庫だけど……」
「……ちなみに好きな作家さんはいらっしゃいますか?」
「……一人に絞れと言われたら、迷わず安沢井麗先生かしら」
木乃香の答えを聞いた睦月は、嬉しそうに両手で天を仰いだ。
「年下攻めの、社会人シリーズですね。あぁ、あの切ない感じがグッと来ますよね」
「そうなの。わかってくれる人が現れた〜! じゃあ睦月ちゃんは?」
「小暮夕暮先生ですね、間違いなく」
「あらあら、睦月ちゃんはオメガバースがお気に入りなの? あれはキュンキュンするよね」
どうやらBL小説の話題で盛り上がっているようだが、読んだことのない四人は首を傾げる。
まぁ新入部員が一人入ったし、これで部として認められる上、大会へのエントリーも可能になったわけだ。これ以上喜ばしいことはなかった。
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