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「わかぱんは何かある? 何でも言っていいんだからね」
和歌はもじもじしながら、言葉を探しているように見える。
「あ、あのっ……エプロンドレスのスカートの裾に刺繍を入れるのはどうですか? でもチロリアンテープを縫い付けるのもいいかなって思っていて……」
「チロリアンテープか……確かに可愛い」
「でも、せっかくだから市販品は使わずに、全部手作りで行きたいよね」
「だけどさ、クラフトンってオリジナル商品も多いじゃない? だったら両方使うのも良いと思うけど」
木乃香がそう言ったことで、美晴は眉間に皺を寄せて改めて考え始める。市販品か、手作業か、はたまた両方か……。
その時、竹代先生が口を開いた。
「オリジナリティは別に市販品を使っちゃいけないわけではないのよ。それをまた自分達らしい使い方をすれば、そこでまたオリジナリティが生まれるんじゃないかしら?」
その言葉に、何かを思いついたかのように美晴の目が輝きだす。二枚目の型紙を引き抜いて一番上に置いた。
「スカートの裾にはチロリアンテープを縫い付けて、エプロンに刺繍を入れるのは? 一週間しか時間がないわけだし、作業を限定していった方がいいと思うんだ」
「でも、同じようなことを考えをする人たちもたくさんいるんじゃない? 特に裾のチロリアンなんてみんな考えそうじゃない?」
木乃香の意見はその通りだった。じゃあどうしたらいいのだろう。全員が口をつぐんだ。
* * * *
その時、睦月が「あっ」と口を開く。
「あっ、じゃあ小物で何かオリジナリティを出すのはどうですか?」
「小物?」
睦月はカバンから羊毛フェルトの本を取り出し中を開く。そこにはたくさんの羊毛フェルトで作られた食べ物が載っており、大きさも形も実物とほぼ変わらなかった。
「ほら、赤ずきんちゃんって、おばあちゃんの家にパンとワインを届けるって設定でしたよね。だからそれを羊毛フェルトで作るのはどうかなと思って」
「すごい、そんなの出来るの?」
「えぇ、まぁ。でもそれを入れるカゴは無理です。作ったことないんで」
「あっ、じゃあ私がエコクラフトとかで作ろうか。今回ビーズの出番はなさそうだし」
「……ひーちゃん、また新しいものに手を出したんだ」
「まぁやりたくなっちゃう性なんだよ。でもこんちゃんだって似たようなものでしょ」
「わかるわかる。やりたくなっちゃうんだよ。和裁も必要なさそうだから、私はつまみ細工でお花でも作ろうかな」
「あら、オオカミさんに狙われちゃう」
「……女子校にはオオカミさんはいませんから」
楽しそうに笑い出した部員たちを見て、竹代先生は椅子から立ち上がる。
「あれ、先生行っちゃうの?」
「もうまとまりかけてるし、あとはみんなに任せるわ。買い出しはいつ行く予定?」
「今日はこのまま話し合いをして、帰りに駅前のクラフトンに行こうかな。それでもいい?」
美晴が聞くと、全員頷く。
「じゃあ立ち寄り許可証を職員室で書いてくるからちょっと待ってて。そうそう、材料費は部費内で収めるようにね」
「はーい」
竹代先生がドアを閉める音を聞いてから、再び話し合いが始まるのだった。
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