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「ばりちゃん先輩は、やっぱり小さい頃から洋裁が好きだったんですか?」
「私? そうだなぁ……おばあちゃんがよく洋服を作ってくれたんだよね。だから真似っこして針と糸を使って縫い物とかはしてたかな」
そこまで話して、突然美晴の目が座る。
「小学生の時、すごい引っ込み思案だったのよ、私」
美晴が言った途端、全員の手が止まり、疑いの目で美晴を見る。
「嘘だと思ってるな。こんな性格になったのは、この学校に来てからだから。なかなか自分を出せなかったけど、家庭科の時間は好きだったの。ただね、六年の時に赴任してきた先生がもう最悪で」
「ど、どんなふうにですか?」
「……あれは忘れもしない、子ども用品を作ろうっていう授業だった。子ども用品なら子供服でもいいかなぁと思って、一番下の妹のワンピースとボレロを作ったの。そしたらね、その先生がこう言ったわけ。『こんな服を作れなんて言ってないわよ。しかも接着芯なんか使っちゃって……』そう言って鼻で笑ったの」
気付けば皆が手を止めて美晴の言葉に耳を澄ませていた。
「まぁ小学生が接着芯なんて早いかもしれないけど、その知識が頭にあったんだから仕方なくない?」
「だって使うなとは言われてないんでしょ?」
「そう、言われてない。だから悔しくて悲しくて、家に帰ってからすごく泣いたの。その日から家庭科が一気に嫌いになったわよ」
「家庭科っていうか、先生だけどね」
「だからね、この学校に入学して、竹代ちゃんに褒めてもらえた時、すごく嬉しかったんだ」
「わかる。竹代ちゃんって必ず良いところを見つけてほめてくれるよね」
日和と木乃香が納得したように手を叩く。睦月、和歌、穂波は部活でしか関わりがないため、ただ三人の姿を眺めながら頷いた。
「思ったんだ。私のことを認めてくれなかった先生の言葉で傷付いたって意味ない。私のことを考えて、ちゃんと想ってくれる先生の言葉なら受け止めようって」
「……それって、ばりちゃんが認めた人しか受け入れないってことだよね」
「まぁ、人付き合いってそんなもんでしょ」
美晴が裁断を終えた布を和歌に手渡す。
「大丈夫。私はみんなを認めてるから、ちゃんと言葉は受け入れるよ!」
「そういえば、日本史の島田先生とやり合ったって聞いたけど」
その瞬間、美晴の顔が一気に曇った。
「……そうなのよ。ダシマのくせに、『平敦盛は、人が言うほど美形ではなかったらしい』って言ったのよ」
「な、なんてことを……平敦盛は美形ですよ!」
「だよね。だから私、ダシマは認めない……」
あぁ、なるほど。2.5次元俳優をバカにされたと思っているのね……っていうか、それこそ現実じゃなくて架空の話だよと思いつつ、美晴の前で2.5次元俳優の話は控えようと思った四人だった。
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