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帰り道。方向が同じ日和と睦月は、駅のホームで電車を待っていた。
「なんかみんなそれぞれ特技があってすごいよね」
「何言ってんの。むっちゃんの羊毛フェルトだって凄すぎ。あれって実はフリマアプリとかで売ったりしてるでしょ?」
「正解。そんなにたくさんは売れないけどね」
やっぱりとでも言うように日和は笑う。
「さっきのばりちゃん先輩の話さ、なんかすごく共感出来たんだよね」
「あぁ、先生のやつ?」
「そう。私もさ、中学の時にクラス行事の裏方を頑張ってた時期があるわけよ。でもさ、褒められるのは大体目立つ人ばかり。細かいことって、頑張ってもどうせ小さいものの集まりになるか、大きいものの影に隠れちゃうんだよね」
「確かにそれはあるかもね」
「友達はそれを知ってたって、大きな声では言わないし、先生は気付いてくれない。だんだんやる気がなくなって、最後はもう荒んでた」
「おぉ、荒んだむっちゃん見てみたかった」
その時に電車がホームに入ってくる。大きな音と共に風が吹き抜け、二人はしばらく黙った。
ドアが開いて中に入ると、閉まっている側のドアのそばに立つ。
「入学してまだ二ヶ月くらいだけど、なんか今までで一番楽しいって感じてる。ちょっと女子校を勘違いしてたかも」
「どんなふうに?」
「女子だけだから、ネチネチして怖そうとか。むしろさっぱりしてるし、みんなマイペースだった」
「まぁ授業中に早弁とか居眠りとか、教科書の間にマンガ挟んで読むイメージはきっとないね」
「しかも誰も隠そうとしないで、多種多様な漫画や小説があんなに飛び交うなんて……なんか気が抜けたんだ。無理して頑張らなくてもいいような気がした」
「いや、むっちゃんは成績優秀なんだし、頑張ったほうがいいよ」
「勉強じゃなくて人間関係の方」
「あぁ、そっちか」
電車が鉄橋に差し掛かり、車体が微かに揺れる。上手くバランスをとりながら外を眺めると、川の水面に夕焼けが揺れていた。
「部活もさ、年齢バラバラなのに、お喋りが止まらないし。好きなことを分かち合えるっていいよね」
睦月の降りる駅が近付いて来る。
「だね。とりあえず目標は予選突破」
「うん、頑張ろう。じゃあまた明日ね」
電車が止まり、睦月は日和に手を振って降りていく。その瞬間、口元が緩んだ。
この私が『頑張る』なんて言っちゃったよ……でも頑張らない部分と、頑張りたい部分。このバランスって大事なのかもしれない。だってその中間が、楽しいって思える場所だから。
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