プロローグ

1/1
前へ
/14ページ
次へ

プロローグ

 もう、何年前の話になるだろう・・・。  余命宣告を受けた友人のために、あの試合は勝って優勝を見せ、送ろうと決めたのに、その思いはそのまま自分への忘れられない思い出となった。  ふと、どこからか風が吹き込んでくる。その風に乗って甘いベリーのような香りを鼻で感じた。 「隠れてないで、こっちに来たらどうなんだ?」  その声に反応するように、物音が聞こえると「なんだぁ・・・、気づいていたんだ・・・」と少しハスキーな声をした女性が部屋に入ってきた。 「いつからいた?」 「そうね・・・。もうかれこれ・・・、5分くらい前かな・・・」  そう彼女は話しながら、横に座るしぐさを感じた。 「そうか・・・。で、先生の話はどうだった・・・?」 「先生の話?どっちの?」  彼女は聞かれたことをそのまま言葉にして返した。 「なら、ひなの方から」  彼女が何かを飲み込んだ気配を感じた。それは、悪い知らせを聞いて知っているからだろう。 「私の方は、順調に回復をしております。3年前の余命宣告が嘘のようだって」 「へぇ・・・、そりゃ良かったじゃないか」 「まぁね・・・」  ひなは嬉しそうに答えた。 「じゃあ、俺の方は?」 「のりちゃんの方は・・・」  ひなは一瞬、言葉を詰まらせた。 『そうか・・・、悪い知らせは俺の方だったか・・・』  俺は、ひなが話すのをジッと待つことにした。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加