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プロローグ
もう、何年前の話になるだろう・・・。
余命宣告を受けた友人のために、あの試合は勝って優勝を見せ、送ろうと決めたのに、その思いはそのまま自分への忘れられない思い出となった。
ふと、どこからか風が吹き込んでくる。その風に乗って甘いベリーのような香りを鼻で感じた。
「隠れてないで、こっちに来たらどうなんだ?」
その声に反応するように、物音が聞こえると「なんだぁ・・・、気づいていたんだ・・・」と少しハスキーな声をした女性が部屋に入ってきた。
「いつからいた?」
「そうね・・・。もうかれこれ・・・、5分くらい前かな・・・」
そう彼女は話しながら、横に座るしぐさを感じた。
「そうか・・・。で、先生の話はどうだった・・・?」
「先生の話?どっちの?」
彼女は聞かれたことをそのまま言葉にして返した。
「なら、ひなの方から」
彼女が何かを飲み込んだ気配を感じた。それは、悪い知らせを聞いて知っているからだろう。
「私の方は、順調に回復をしております。3年前の余命宣告が嘘のようだって」
「へぇ・・・、そりゃ良かったじゃないか」
「まぁね・・・」
ひなは嬉しそうに答えた。
「じゃあ、俺の方は?」
「のりちゃんの方は・・・」
ひなは一瞬、言葉を詰まらせた。
『そうか・・・、悪い知らせは俺の方だったか・・・』
俺は、ひなが話すのをジッと待つことにした。
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