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私の初恋の話
私はしばらくスマホをずっと眺めていた。1人部屋で頭を抱えながら。スマホのLINEには
「今度食事でも行きませんか?」
の文字が打ってある。あとは送信するだけだ。
「あー、やっぱ無理だよなぁ…。」
私はぽそっと呟いた。送る相手はバイト先の社員さんだ。私が高校に入ってすぐ働き出したバイト先に、あとからその店舗にやってきた面白い社員さんだ。いつもバイトのみんなを楽しませてくれ、仕事には人一倍熱心。困った時はいつでも駆けつけてくれる。植物を心から愛していて、優しい笑顔が特徴の人だ。活発そうに見えるけれど、顔は女子も羨むくらい肌が白い。私のバイト先は男子がとても多くて、男子同士でよく喋っているから女子達はみんな肩身の狭い思いをしていた。その日のシフトの中にバイトの女子が自分だけなんてこともしょっちゅうあった。そんな中、いつも笑顔で喋りかけてきてくれて笑わせてくれるのがその社員さん、Kさんだった。最初は普通に面白い人だなとだけ思っていたが、いつしか自分の目はKさんを追うようになっていた。そして熱心な仕事ぶりを見ているうちに、どんどん惹かれていくようになった。
高校3年生のクリスマス、運命のように同じ時間帯にKさんと仕事になった。私は張り切ってクッキーを焼いていき、社員さんとバイトの人にも渡した。Kさんに渡すのは凄く緊張した。まるでバレンタインを渡す時のような感覚だった。Kさんは笑顔で
「おぉー、ありがとう!」
と言ってくれた。その一言で十分だった。私の心は踊るように跳ねた。
また、バイトを辞める少し前、私が卒業旅行に北海道に行くと言った時、
「じゃあ、何かお土産買ってきて!」
と冗談まじりにKさんは言った。私は真面目に受け取り、
「はい!」
と答え、北海道旅行のお土産選びはうきうきしながら選んだ。ただのお土産選びがこんな楽しいものとは思いもしなかった。
「喜んでくれるかなぁ。」
考えていたのはそれだけだった。お土産を渡す時、どきどきしながらタイミングを見計らって渡した。大体このお土産を渡すというのは、渡すタイミングがすこぶる難しい。相手が仕事中なら邪魔をしてはいけないし、他の人が一緒にいるタイミングならあまり良くない。1人になった時を見逃してはいけない!こうなるとタイミングを見計らっている私は
「これってストーカーみたいじゃね?」
と恥ずかしくなってくる。
「また今度にしようか、それとも勇気を持って今渡そうか?」
これが最大の葛藤になってくる。でも、
後悔はしたくない。
これは常々思うことだ。
そして、私がもうすぐバイトを辞めるという時、友達にKさんのことを相談すると、
「とりあえずご飯に誘え!」
というのが返答だった。考えれば、私はKさんについては何一つ知らないし、彼女がいるかさえ分からなかった。でも、バイト先で誘うのも直接いうのもとてもじゃないけど言える気がしなかった。そこでLINEで誘うことにしたのだ。そして冒頭に戻る。
「えいっ!!」
私はKさんを思い切って食事に誘ってみた。ほとんどダメ元で…。
「あれだけ素敵な人なら彼女も絶対いるよなぁ。」
私はただLINEで食事に誘ったというだけの自分を褒めまくった。数日後…、なんとOKの返事が返ってきた。
「ええっ…!!」
驚くと同時にLINEを見ながら思わずにやけてしまった。
「やったよ自分!やったよ!」
部屋で思わず小躍りをしてしまった。Kさんは仕事終わりに来てくれるという。私はもう準備を万端にして向かった。食事というより、決戦という言葉の方が合っていたかもしれない。食事しようと思っていたところは満席でお待ちが出ていたため、一駅電車に乗ってまさかのドーナツ屋さんでご飯を食べた。しかし、私はそのドーナツ屋さんを思い出すことができない。あんまり味わっていなかった。むしろ、食事を一緒にしているということが夢のようで現実か疑っていたのかもしれない。すぐ喉がカラカラになって紅茶をぐびぐび飲んだことだけは覚えている。あっという間の3時間だった。Kさんは私が高校生ということもあり、時間を気にしてくれていた。
「あんまりこの駅降りたことないので降りれてよかったです。」
私は夜風を感じながら言った。あれやこれやと喋っていたら駅に着いてしまった。私とKさんの行き先は逆だ。Kさんは私の行き先のホームまで着いてきてくれた。私は最後にどうしてもKさんに聞きたかった。彼女がいるのかどうか。でも、時間は待ってくれなかった。私たちがホームに上がると同時に電車が来てしまったのだ。その時、私の心中には、またしても葛藤が始まっていた。
後悔はしたくないよね?
気づいた頃には、電車は走り去っていた。一本見送ったのだ。Kさんは驚いていたが、私は
「私から食事誘ったので送りますよ。」
と出まかせに言って反対のホームへ行った。少し時間があった。もう私の心臓は平常心ではなかった。また葛藤が始まっていた。
後悔はしたくないよね?
「あの、Kさんって彼女とかいるんですか?」
私は思い切って聞いてみた。すると、
「彼女とかはいないけど、放って置けない人はいるかなぁ。」
とKさんから予想外の答えが返ってきた。私の脳は一瞬思考が停止してしまった。
「あぁ、そうなんですか。」
それしか言いようがなかった。
それって幼馴染とかですか?
そう聞きたかったけれど口はもう動かなかった。
「彼氏とかいないの?」
逆に聞かれた。
「いないですね…。」
というと、Kさんは
「きっと素敵な人に会えるよ。」
と言ってくれた。それが私にとっては残酷な言葉とも知らずに…。
その夜、私は達成感と少しのモヤモヤを残したまま家に帰った。家に帰ってLINEを見ると、Kさんから
「あんまドキドキさせること言ったらあかんで!」
とご丁寧に顔文字付きで送られてきた。私は一言呟いた。
「ズルい。」
その後、バイトを辞めて私は社会人になった。不安な日々を送っていたが、一つ楽しみがあった。それは出勤する電車からKさんが見えることだった。時間帯が丁度重なるのか、一瞬だけ見えるのだった。それを楽しみに毎日頑張った。そんな毎日を送っていたら今度はこんな欲望が芽生え始めた。
「Kさんとの写真が欲しい!」
でも、単に
「写真を撮ってください!」
って言っても気持ち悪がられるだろうと考えた私はこんなLINEをKさんに送った。
「Kさんが芸能人と顔似てるって言ったら友達が写真見せてって言ってきたので写真撮ってもらえませんか?」
とりあえず理由はなんでもよかった。自撮りでは上手く撮れないだろうと思い、友達もカメラマンとして同行してもらい、写真を撮ってもらった。今考えれば大分馬鹿げたことをしていたと思う。そんなこともKさんは快くOKしてくれた。
その後、Kさんとは一度だけ奈良へ遊びに行った。その時、密かに私はラブレターを持って行っていた。帰り際、渡せるタイミングがあれば渡そうと考えていた。けれど、人混みに2人とも疲れてヘロヘロになって電車に乗った帰り道に渡せるタイミングなどなかった。ただ、奈良へ遊びに行ったことも今となっては素敵な思い出だ。初めてこれだけ人を好きになる気持ちを教えてくれたのは紛れもなくKさんだ。今も真面目に仕事をこなしているであろうKさんに会うことがあれば今度は感謝の気持ちを伝えたいと思う。
ありがとう、Kさん!!
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