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クラスで一、二を争うほど成績が良く、いつも手を挙げてはきはき喋る少年である彼がここまで言いよどむのも珍しい。この年の少年は、少女以上に個人差が激しい年頃だと私は思っている。まだまだ幼い子もいれば、中学生と間違えられるくらい達観している子もいる。女の子にも言えるが、男の子の方が心身の成長に開きがあるから尚更そう感じるのだろう。
「……作文を回収したら、先生が面白いと思ったものをいくつか紹介すると言ってたじゃないですか」
彼はおずおずと口を開いた。
「それで、僕の作文は紹介しないでくれるというのなら……提出、します」
「ということは、書いてはいるのね?」
「はい。でも、もし先生が僕のをみんなの前で読んでしまったら困ると思って。先生一人が読むのはいいけど、友達にあんまり聞かれたくないんです。特に沼津君には。……沼津君と、作文に関する話をしたんですけど、沼津君も桃太郎に関して作文を書いたらしくて。内容をちょっと教えて貰ったんですけど、すごく夢いっぱいでキラキラした内容だったというか。……僕の作文を知ったら、絶対ショックを受けると思って。桃太郎に関する夢を、ぶち壊しにするようような考察を書いちゃったから……」
そう言われると、逆に興味が湧いてしまうというものである。彼の作文を紹介するかどうか、は横に置いておいて。ひとまずそれがどんな内容なのか、は聴いてみる価値が大いにありそうだ。
桃太郎と言えば、昔話の代表。鬼を退治して、人々の平和を守った英雄。ヒーローの象徴として扱われることも多いものである。彼の親友である沼津賢哉の作文も読んだが、多くの生徒がそうであるように彼も桃太郎という存在に対する憧れをストレートに作文に記していた。なるほど、そういう内容を先に知っていたのであれば、ややイメージを破壊しかねないような作文を彼に見られたくないと思うのも自然なことだろう。
「とりあえず、どういう内容か教えてくれないかな。桃太郎が嫌い、鬼が嫌いという人はいるけど……おじいさんとおばあさんが嫌いっていうのは初めて聴いたから、凄く興味があるわ」
やや机に身を乗り出して尋ねれば。彼はちょっと驚いたような顔で、いいんですか、と尋ねてくる。
「ちょっと長いんですけど、それでいいなら」
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