有罪と無罪のトリル

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「そう考えると、筋が通る答えは一つしかないです。……桃太郎もまた、鬼だった。鬼の首魁、もしくはそれに匹敵する存在が死んだ後、桃の形をした媒介に宿って復活した存在だと。……だたし、転生した桃太郎は鬼としての記憶を失っていて、自分を人間だと思い込んでいる、と」 「でも、桃太郎に角はない、わよね?」 「そんなの、おじいさんとおばあさんが幼い頃に気づいてたなら、折るなり隠すなりできたと思いません?……普通の人が太刀打ちできない鬼をあっさり倒した、桃から生まれて来た……あるいは犬たちと普通に会話できたのも実は伏線だったのかもと僕は思うんです。桃太郎の昔話で語られている情報は少ないけれど、少ないなりに桃太郎が人外の存在だと示す証拠は揃っている、と」  最終的に、と魁人はため息をつく。 「桃太郎は鬼を倒して英雄になり、鬼の宝物を奪って大金持ちになりました。言い方は悪いですが……おじいさんとおばあさんも、私腹を肥やしたんです。その結末を鑑みると、二人には多少生活が苦しくても……桃太郎という名の“人外”を育てて、鬼が島に送り込むだけの理由があったと思いませんか?」 「それも、そうかも……」  なるほど。つまり、おじいさんとおばあさんは、桃太郎が鬼を倒せる鬼だと分かっていた上で、先行投資というつもりで桃太郎を我が子として育てた。復活した鬼である彼に、前世の鬼としての記憶がないのをいいことに人間として育て、人間として都合の良いように洗脳したのではないかということだ。 「おじいさんとおばあさんが、桃太郎が鬼だと気づく可能性は充分にあったし、最初から知っていてもおかしくない状況だった。鬼が島の噂だって、桃太郎よりも先に知っていてもおかしくありません。……鬼を倒すために、鬼を差し向け、鬼同士で殺し合いをさせて自分達の富とした。そう考えると、辻褄が合うことが多すぎるんです」  だから、と彼は俯いた。 「だから僕は、おじいさんとおばあさんが嫌いなんです。何も知らずに仲間殺しをさせられたかもしれない桃太郎も、復活した元仲間に殺されたかもしれない鬼達も気の毒でなりません。下手をしたら、鬼の悪行さえ捏造だった可能性があるから尚更です。……桃太郎がもし完全な復活を遂げて、鬼としての記憶や知識を取り戻したら。自分を利用したおじいさんとおばあさんに復讐する可能性もあるのではないか、そんなことを考えて……作文にしてしまいました。そんなの、桃太郎に夢を見てる友達に見せられないですよ」
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