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四月
中学最後の一年は、静かに始まった。
はじめのうちは、ちょっと辛かった永濱君と三﨑さんのことも、すぐに何でもないことのように思えた。
それほどに、私の周りには、私を退屈させない人たちがあふれていた。
りみちゃんの引っ越しや、耀太のけが。るみちゃんの彼氏の訪問。吉仲家は大騒ぎだった。知紗子も私をいろいろ連れ出してくれた。
そして、やっぱり呂玖。
毎日毎日、ほんとに手がかかる。
でも、今ならわかる。あれは呂玖なりの『気づかい』なんだって…。
夏のコンクールで私たちは部活を引退する。
気まずかった永濱君とも、友達に戻りつつあった。三﨑さんに気は遣うけど、
私は思った。「永濱君とはこの関係のほうが、心地よい」と。
最後のコンクールは、大変だった。
みんな聴きに来るって言いだした。
お父さんもお母さんも、ロックしか聞かないじゃん。
吉仲家は何となく様になるけど、呂玖は最後までじっとしていられるだろうか?演奏以外の心配で、いつも以上の緊張感で迎えた当日。
悔いのないように奏でよう。
そう心に決めて挑んだ舞台は、すがすがしいほどに気持ちのいい演奏ができた。
お父さんもお母さんもなぜか涙を流していた。
「感動した。」
そういって、その日はなぜかお寿司を取ってくれて、吉仲家と、巻き込まれた知紗子も入れて大宴会だった。
知紗子を送ってく。
その帰りに、私と呂玖はまだ生暖かい夏の夜道を歩いた。
「今日、むちゃくちゃよかったよ。」
「そう?そういえば呂玖、ちゃんと演奏聞いたの初めてだよね」
「お、おう」
「どうせ、部活のBGMくらいにしかおもってなかったんでしょ?」
「はは…まぁな」
もう!と言って呂玖を軽く小突く。
もうそんなことではびくともしない、程よく筋肉の付いた呂久のわき腹が、Tシャツの裾からのぞく。
「はぁ 部活終わったし、いよいよ受験に本腰いれなきゃだね」
「だな」
蒸し暑い空気をかき分けるように進む。
楽しい話題じゃないから、余計暑く感じる。
「呂玖はちゃんと決まった?」
「あ あぁ」
けだるそうに言うその感じに、呂玖の進路が心配になる。
少しの沈黙の後、呂玖がぼそっと言った。
「なぁ、まなの志望校って、軽音部ある?」
「は?」
唐突な質問なのに、単純な私は頭をフル回転させる。
でも、呂玖の質問の答えは出てこなくて
「わからん」
としか言えなかった。
すると、呂玖はおもむろに携帯を出して、何やらポンポンといじっている。
少しした後、
「俺も、」と言って立ち止まった。
同じく立ち止まった私に
「俺も、まなと同じ高校行く」と言った。
「は?」
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