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誰もいない夏の路地に、私の声が響く。 私と同じ高校行く—って 言っちゃ悪いけど、呂玖の学力(あたま)では、ちょっと厳しいよ? 私だって、試験に向けて、部活の合間縫ってやっとB判定もらえたんだから。 「だって、呂玖…」 「わかってる。まなが言いたいこと」私を遮って、呂玖は力強く言った。 「でも、俺今日思ったんだ、まなたちの演奏見て、俺も音楽やりたいって」 呂玖はいつも突然だ。彼の中で何がどうスイッチ入るのかわからないけど、 『やる』と決めたことは、ちゃんとやり遂げてきた。『空を飛ぶ』とかほんとにバカなことでもない限り。 「でも、なんで都奈津高校なの?」 「軽音部があるし、まながいるから」 さらっという。さらっというけど…。 「俺、もう1個気づいたんだよね」 まだ私の頭は追いついてないよ。 「俺、まなと一緒にいたいんだ。」 —え? 「俺、まなのこと     好き。」 …『好き』とは? 夏の暑さに普段以上にうまく回らない頭で、自問自答する。 きっと、私は呂玖に答えを求めるような視線を向けていたのだろう。 呂玖は、柔らかく笑って、 「ちゃんと、女として、まなのこと好きってこと」 と言った。 女として…。それって、つまりその…。 「わかんねーの?バーカ」 呂玖が私の頭をポンポンする。 そんで、ゆっくり私の耳元まで顔を近づけて 「まなのことおっぱいもんだり、脱がしてお尻触ったりしたいってこと」 と言った。 !!!! 口より先に手が出る。呂玖のおなかめがけてぐーパンチを繰り出すけど、 さらっとよけられる。 そういうのって、好きな女の子に言うことじゃなくない? 「ばっかじゃないの!」 「あ やっといつものまなになった。」 顔を真っ赤にして怒ってる私に反して、呂玖はいつものように無邪気に笑っている。 なんなの?どういうつもり? 私だって、私だって、呂玖のこと『』て思ったこと、なくはない。成長に伴って、どんどん背も伸びて、どんどんかっこよくなって、周りの女の子にも人気出てきて…。好きにならないわけがない。でも、呂玖は私のことそんな目で見てないと思ってたし。周りの言う通り、呂玖にとって私はよくて、面倒見のいい幼馴染だって、そう思ってた。そして、私自身もこの距離感が心地よかった。でも、『好き』なんていわれたら、勘違いしてしまう。 私だって一応、『女の子』なんだよ? それなのに、いつもみたいに下ネタかまして、からかってるならやめてよ。 ちょっと目頭が熱くなってしまう。 その瞬間— 離れていた呂玖の気配が、すっと近ずいてきて、私は呂玖の腕に、いや呂玖にすっぽり包まれる。 「—え?」 「ごめん」 聞いたことのないほど柔らかい声で呂玖が謝る。 「マジで、俺、本気でまなのこと好き。」 呂玖の心臓の音が聞こえる。ドキドキしてるのは私だけじゃないことが伝わってくる。 「あぁ!こんな感じで言うつもりじゃなかったのに!」 ごまかすみたいに、頭をガシガシかきながら呂玖が言う。 呂玖の中では、どんどん話が進んでるみたいだけど、 私はまだ呆然としたまま抜け出せない。 ほんとに?ほんとに呂玖が私を好きなの? だって、だって 「あ、やべぇ、てんぱりすぎて大事なこと聞いてねぇ」 混乱している私にかまわず、呂玖がどんどんかぶせてくる。 「まなは?」 「え?」 「まなは俺のこと好き?男として、こういうのいやじゃない?」 「あ…えっと…」 状況に追いつこうと必死な私の返事に、呂玖は 「え?だめ?」とちょっと焦っている。それを見て思ってしまう。 あぁかわいいなぁ。なんだかんだ私は結局いつも呂玖の言いなりだ。 呂玖は私がいないとだめって思ってたけど、ほんとは呂玖がいなきゃダメなのはのほうだったんだ。
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