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ハッとしてしまう。 そうだ。 この人は私の彼氏。 可愛いだけの呂玖(おさななじみ)じゃない。 見上げたその顔に、 そのことを思い知らされた。 急に意識して、緊張してしまう。 彼は、かなりの優良物件と名高い、 モテメンなんだった。 彼がかっこいいのはわかってる。 周りの女の子に言われたことを思い出す。 『幼馴染だからって調子乗るなよ』 そう、確かにそうなんだ。 いわゆる、"付き合っていただいてる" と思えるレベルの“いい男”だ。 「?どうしたの、まな?」 じっと見つめている私に、不思議そうに尋ねてくる。 「…!いや…、よだれ垂らしてるんじゃないかと思って、」 なんて、くだらない切り返しで視線を逸らす。 「え?マジ?よだれ出てる? いやぁ、実は腹も減ってるんだよね」 と慌てて、口元をぬぐう。 もう…。 「大丈夫、まだ垂れてないよ」 「えぇ?垂れてないのかよ」 まったくこの人は…。 中身はずっと変わってない。 今は思っててもいいよね? この人は私がいないとダメなんだって…。 「いらっしゃいませ」 カフェの店内はクリスマス一色だった。 店員さんも赤い帽子をかぶっている。 いやおうなしにクリスマス気分になる。 るみちゃんたちのセレクトだけあって、 リーズナブルで、おしゃれなカフェ。 クリスマス仕様のカフェラテセットを頼む。 隅っこの席なんだけど、 やっぱり呂玖は目立つ。 ちらちらとこちらを見るお客さんがちらほら。 「まなのマフィンも少しちょうだいね」 そんな視線なんてまるで気にしないのが、呂玖。 見た目は大人、中身は子供、まるで某アニメの探偵君とは、 まったく反対のイケメン。 期待を裏切らず、口の端に泡を付けてカフェを楽しむかわいさ。 この見た目で、甘いもの好きとか、 まさに完璧に女子の理想だ。 「まな」 「ん?」 「なんか今日違う人みたい」 「そう?」 「うん、メイクも髪型も… りみちゃんたちにしてもらったの?」 「うん、変かな?」 もう一度確認してしまう。 「ううん、ただね。 今日誘ってよかったって」 「え?あ、うん、私も誘ってくれてうれしかったよ」 「なんていうかさ、俺が誘わなかったら、 こういうまなは誰か違う男が見てたかもって思うと、 …なんていうか、苦しくなる」 「え?」 「ほら、永濱もそうだけどさ、 まなって中学生にしては大人びてるっていうか」 「誰のせいでそうなったと思ってるの」 「え?な、なんかごめん」 自覚なしか…。 「前は俺だけのまなだったのに、 なんか、いつの間にか周りのみんなのことも、 まなが気にしてるような気がして」 「まぁ何となく頼まれたら断れないかも」 「うん、それに、永濱みたいに、 まなのいいところにいろんな男が気付いたらどうしようって…」 「…呂玖」 「実はさ、俺、焦ってたのかも」 「え?何に?」 「永濱がまなに告白したとき、 まさか、俺以外の人がまなの特別になるなんて思ってなくて、 だから、なんかちょっと気になって、思わず見張ってたっていうか…」 え?それって、嫉妬してたってこと? 永濱君がうちに来たり永濱君と一緒にいたりするとき、 わざと絡んできたってこと? これって、怒っていいやつだ。 でも、 「もう、いいよ、永濱君のことは」 そう言った。 そうだ。私にだって原因がある。 知紗子が言ったように、 私だって、どこかで“呂玖は特別”って思ってたんだし。 「今日はせっかく付き合って初めてのクリスマスだし、ね?」 「…うん」 あぁ私はバカだな。 そんなに前から嫉妬してくれてた呂玖を、 愛おしいとさえ思ってしまう。 やっぱり、永濱君と付き合っていても、 彼を傷つけるだけだったんだ。 そう思い知らされた。
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