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「どう?」 たたき終わったドラムセットの前で、 スティックをくるくる回して、 呂玖が私に聞いてくる。 「いやいや、如月さんじゃなくて、 まずは先輩に聞け!」 と先輩たちにツッコまれている。 「でも、まじでどうだった如月ちゃん」 「よかったです。オリジナル曲やっぱいいです。」 「そう?よかった、今回自信作なんだよね」 先輩たちは、嬉しそうに笑ってる。 演奏してないと、いつもの呂玖。 それでも、大好きなのは変わらない。 けど、演奏しているときの呂玖には、 なんだか気持ちをかき乱されるみたいで、 ふわふわしてしまう。 そわそわして、落ち着かなくなって…。 「今日、帰ったら俺んちこない?」 校門を出てすぐ、呂玖は当たり前のように、 手をつないでくる。 「ん?なんかあるの?」 「りみちゃん帰ってくるんだ」 「え!ほんと!」 りみちゃんは少し前に結婚して、 おなかには旦那さんとの赤ちゃんがいる。 「里帰り出産?の準備に来るんだって」 「そっかぁりみちゃんお母さんかぁ」 「るみちゃんは、"私おばさんになるの?"って騒いでたけど(笑)」 「(笑)わかるぅ、あ、でもそしたら、 呂玖も“おじさん”じゃない?」 「…?…っ!あ、そうだ!」 急に慌てる呂玖。 「絶対、名前で呼ばせよう」 「はは…、でも叔父さんであることには変わりないんだけどね」 「ねぇ、俺おじさんっぽい? 俺が叔父さんになっても、まなは嫌いにならない? やっぱ若い男のほうがすき?」 あぁぁぁぁぁぁ ってなってる。 若い男が好き?って何?(笑) 私たち同じ年なんだけど(^^;) 「変わんないよ、呂玖は呂玖だし」 「あ、そうか、俺は俺だ。」 もう、ほんと単純。 まぁ、私もりみちゃんのお子さんにとっては、 ほぼほぼ“おばさん”なんだけどね。 ねぇ、呂玖もいつか、若い女の子のほうが好きにななっちゃうの? そう思ったら、握っていた手に少し力が入ってしまった。 「?」 不思議そうな顔になった呂玖を見てハッとした。 慌てて手の力を緩める。 「帰ったら、りみちゃんと一緒に、 まなの好きなアイス食べよ?」 「うん」 何だろう。 呂玖は、いろんなこと、 私の気持ち、わかってるのかなぁ。 こんな何気ないことに、 ほっとして、安心できる。 この手は、ずっと、はなしたくないな。
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