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急いで態勢を整える。 「ごめんなさい」 と先輩に詫びて、急いで離れる。 「ちっ!」 先輩から小さく舌打ちが聞こえる。 「またね、如月さん」 と、呂玖を一瞥して先輩は去ってった。 「あ、っと」 「まなんち行く前に、コンビニ行こうと思って…」 なんだかぎこちない。 何となく、先輩の香水の匂いが、 まとわりついている気がして、 居心地が悪い。 「そっか、じゃコンビニ行ってから帰ろうか」 いつも通り、いつも通り。 でも、何も悪いことしてない。 なのに鼻に残る先輩の香水と、 無口になった呂玖に、 小さな不安が、心の中で膨らんでいる。 「呂玖お風呂は?」 「俺、入ってきたから」 「そっか、じゃ私ちょっと入ってくるね」 部屋に戻ってからも、 呂玖のそっけなさが気になる。 お風呂から出て、部屋に戻ると、 呂玖はテレビを見ていた。 いつも通りの感じにほっとする。 隣に座って、同じ画面を見つめる。 いつもなら、懐いてくるなり、 話しかけてくるなりするのに、 やっぱりぎこちない。 「ねぇ、呂玖…」 そう言って見上げた顔にドキッとした。 見たことないくらい、 複雑な表情をしていた。 「…、あの人」 テレビを見たまま呂玖がつぶやく。 「あ、うん」 「…」 言葉は続かない。 いやだ。 こんな呂玖知らない。 『誰なの?何してたの?』 そんなふうにストレートに責めてほしい。 だって、私は呂玖だけだよ。 そう伝えたいから。 こんなに気にすること? おかしい、呂玖おかしいよ。 「サークルの先輩だよ、私がころんじゃって、 支えてくれたの、私ってドジだよね」 ついつい饒舌になってしまう。 少しの沈黙。 「あ、まじで、なんでもな…」 何でもない—そう言おうとしたそれは遮られた。 どさっ! 背中が床にくっついて、 目の前には呂玖が見えた。 あ、私押し倒されたんだ。 覆いかぶさるように私を見下げる呂玖を、 こんな時なのにドキドキしながら見つめた。 呂玖の整った顔。 うすくてきれいな唇。 少し伸びた無造作な髪の毛。 この日の呂玖のことは、 きっと一生忘れられない。 どんな気持ちなのか、 私に初めて見せたその表情からは、 私には呂玖の気持ちを知ることはできなかった。 ただ冷静に。 呂玖を見つめてしまった。 でもその一瞬の後。 呂玖が男だったことを思い知らされた。 「まな」 そうささやいてすぐ、 その声とは正反対に乱暴に、 私の唇を奪った。 それは、怖いくらい荒々しく、 キス、というよりは唇をむさぼる、 という行為だった。 名前を呼びたくても、息もままならない。 抵抗したくても、 呂玖に強くホールドされている。 こんなに、力強かった? そう思ったけど、 成人男性の力ってこんなもんだろう。 ただ、呂玖は今まで優しかったから、 こうしなかっただけだ。 —いや— いや、私たちはもう大人なのに、 呂玖はキスより先は求めてこなかった。 どうしてかはわからない。 でもきっと、私も呂玖も一緒にいるだけで満足だったし、 からだの割に中身が子供のままだった私に、 呂玖が合わせてくれてたんだと思う。 いづれは、キスより先がある。 そう思っていたし、 この状況って当然と言えば当然。 二十歳そこそこの男女が、 お泊りするって、そういうことなんだろう。 だからこそ、彼女としては、 求められてうれしいのかもしれない。 でも、 でもこんなのってどうなの? 呂玖はどんな気持ちなの? そんなことをのんきに考えてたら、 強引に開かれた前ボタンが、 はじけ飛んだ。 あらわになった下着の上から、 呂玖の熱い息がかかる。 噛みつくようにして下着をずらして、 呂玖の舌が胸もとをなぞる。 あぁ、これって愛し合ってるというよりは、 “犯されてる”よね。 こんなに大好きな呂玖の体温が、 とっても冷たく感じて、 気づいたら、私の目からは、 涙がこぼれていた。 ただ、ちょっと先輩にちょっかい出されただけなのに…。 なんで、呂玖はこんなになっちゃったの? 何かほかにもあった?
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