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ありがたいことに、 社会人1年生は忙しく充実していた。 覚えることはたくさんあるけど、 大好きなお菓子に囲まれてする仕事は、 楽しいものだった。 輸入菓子は、かわいくて不思議な味がして、 ポップもどんどん浮かんでくる。 夏が終わって、 研修期間も終わりを迎えたころ、 知紗子からのみのお誘いがあった。 誘われたのは、ちょっと大人の雰囲気のバーだった。 時折ライブもやっているらしく、 小さなステージにドラムのセットが置いてあった。 ちょっと、呂玖のことを思い出してしまう。 「チョイスミスだったかな」 「ううん、まぁ思い出さないと言ったらうそになるけど」 気まずそうに眉をひそめて笑う知紗子に、 私は冗談ぽく笑って返した。 「あれから全然連絡ないの?」 遠慮がちに尋ねてくる。 「うーん、そうだね」 「こんなこと言うのなんだけどさ、 あれだけのイケメンだともてるしさ、 ってこともあるかもね」 そうだ。 呂玖はいい男だ。 私なんかにこだわる必要はない。 ずっと私だけ、なんてことありえなかったのかも。 そう思うとちょっと悲しいけど、 腑に落ちた。 「あれ?まなちゃん?」 ふいに名前を呼ばれて振り返る。 「あ、知紗子ちゃんも」 嬉しそうに声を弾ませたのは— 拓哉君だった。 「あぁ、軽音部の」 彼に私より早く知紗子が反応した。 「あれ?俺印象うすい感じ?」 名前が出てこなかった知紗子に、 高校生の時と変わらない笑顔で、 軽口を言う。 「覚えてる覚えてる、たくや君」 「久しぶりだね、変わらないね」 「二人は、…大人っぽくなったよねぇ 人違いだったらどうしようかと思ったよ」 「もう、相変わらずだねぇ」 一気に高校生の頃に戻った気持ちになる。 「元気だった?拓哉君も飲みに来たの?」 「そう、俺たまにここで演奏()らせてもらってんだよね」 「へぇ、まだバンド活動続けてるんだね」 「そうそう、もてたくてずっと続けてるんだよね」 と笑う彼は、ほんとに変わってない。
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