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翌朝。 部屋のカーテンを開けると、 朝日に照らされて、 いやおうなしに目に入るのは— 呂玖の家。 今日は休日だから、 きっと家にいるはず。 そう分かっていても、 いざ、会いに行こうと思うと、 足がすくむ。 「お、おはよう」 キッチンに行くと、 お父さんがコーヒーを入れてた。 「おはよう」 「昨日とまってたんだ、コーヒー飲む?」 「うん、ありがとう」 「そっか。 コーヒー淹れとくから、新聞とってきてくれない?」 ったく人使い荒いなぁ 玄関ドアを開けて、ポストを見る。 新聞を手に取って、伸びをした。 「まな…」 名前を呼ばれて、動きがとまる。 その声はずっと私の耳になじんできた、 ずっと大好きな声。 振り向かなくてもわかる。 「…呂…玖」 朝日に照らされたその姿は、 少しやせたように見えた。 目を泳がせて、何ならうろたえているみたいな呂玖。 胸の奥から何とも言えない気持ちが沸き上がる。 こんなにそばにいるのに、 笑いかけることも、笑いかけてもらえることもない。 ただ見つめあうしかできない。 そのもどかしさは、 まだ付き合う前の気持ちを思い出される。 あの頃に戻れるなら…。 それはない…。 それに、私は呂玖の唇の感覚も、 抱きしめられるぬくもりも、 彼女として扱ってもらえたその優しさも、 みんな知ってしまっている。 「久しぶり、元気だった?」 そう絞りだすのがやっとだった。 「…あ、うん、まなも…元気?」 「うん、私も社会人になったんだよ」 「そっか」 耐えがたい沈黙が流れる。 「じゃ、俺、行くは…。」 そう言って、私に背を向けようとする。 それは反射的だった。 「…っ!」 気づいたら呂玖に駆け寄って、 服の裾をつかんでいた。 「…、あ、えと」 「…」 「…、ちょっと話せない?」 やばい、呂玖の香りが鼻をかすめて、 泣きそう。 呂玖は戸惑っているようだった。 しばらく、黙った後、 「…、広場行こ」 と言った。 私は、慌てて玄関に新聞を放って、 「ちょっと散歩行ってくる!」 と言い残して家を出た。 呂玖も家に声をかけて、 二人で広場に向かう。 広場とは、近所のちょっとした公園のような場所だ。 ベンチと自販機くらいしかない、 小さなスペースだ。 土曜の朝には、まだ誰もいない。
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