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同じ校区内だから、もちろん小学校も一緒。
りみちゃんとるみちゃんも、当たり前のように、呂玖のことは私に聞いてくるようになってた。
そんなことより、二人はちょっとやんちゃな耀太に夢中だった。
耀太は男子にも人気だったけど、なぜか上級生の女の子から、もてまくっていた。
「見てぇ。あんなちっさいのにかっこよくない?」
と言われているのは、姉として誇らしくもなんだかくすぐったい気持ちだった。
「強く、やさしくあれ!」という父の教えは、しっかりと耀太の中に根付いていた。耀太が単純で、父の言葉をまっすぐに受け取れていてよかったと思う。
小学校3年生くらいになると、呂玖がだんだんと頭角を現し始める。『単細胞』の始まりだ。でもさぁ、それでも呂玖ほど顔面偏差値が高いと、そのあほさをカバーできちゃうんだよね。
それがなんか腹立つっていうか…。でもそれはたぶん、そのころから私が呂玖のことを意識し始めたからだったんだと、今ならわかる。
「まな、チョコ食べる?」
小5のバレンタインの夜。紙袋を持って呂玖がうちに来た。
「は?」
私はその紙袋を見て、思わず自分の机の上の包みを隠した。
なんだか渡せなかった、呂玖へのチョコレート。毎年あげてるんだから、その年もあげればよかったのに、なぜか渡しそびれていた。
耀太にあげたのと同じやつだけど、気持ちが違う。そう思ってしまったからだ。
ばさぁーと部屋の床に出されたチョコの中には、明らかに本命だと思われるものも混じっていた。
「…これって…」
「義理だからねって、みんな渡してくるんだけどさぁ、お返しどうしよう?」
義理…?
「まなも一緒に食べよ?そしたら、一緒にお返し考えて?」
能天気な明るいいつもの呂玖の声。
でも、明らかに手作りって感じのものもあるし、高級そうなのもある。
「だめ!」
私は思わず叫んでしまった。
「え?」
呂玖も驚いたように私を見る。
「だって、だって、きっとこの中には、呂玖に気持ち伝えたくて、真剣に渡したチョコだってあるんだよ?」
そう言いながら、ちょっと悲しくなってしまう。それは、渡した女の子の気持ちがわかるからなのか?呂玖の無神経さに腹が立っているからなのか?それとも…、それともこのチョコレートたちに嫉妬しているからなのか…
「呂玖に自分の気持ち気付いてほしくて、今日を待ってた子だっているんだよ!」
ふと一つの包みに目が留まってしまう。リボンの結び目に、とてもきれいなカードが挟まっている。
それを見た瞬間、私は床に広げられたチョコを紙袋に戻した。
「まな?」
不思議そうな不安そうな呂玖の声がする。
「私は食べられない。」
涙が目に集まってきてしまう。
「呂玖のバカ!もったいないから、自分で食べられないほどもらったらだめだよ!」
それをごまかすために、呂玖に背中を向けてそんなわけわからないことを叫んでしまった。
「…はい。」
そういって、呂玖が、部屋から出ていく気配がした。
すぐにベットに入って、布団にもぐった。
こんこん
扉を開く音がして、
「ねぇちゃん…入るよ」と耀太の声がした。
きっとさっきの声を聞いて、心配してきてくれたんだろう。
「大丈夫?」
「うん、ごめん一人にして…」
布団をかぶったままそういうと、足音が部屋から出て行って、扉が閉まる音がした。
この日が、私が初めて『呂玖のことが好きなんだ』って自覚した日だった。
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