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翌日の朝、動物園の無料券を高橋さんにあげて喜ばれ、いつも通りの仕事が始まる。
つまらない仕事でやりたくもない事だが、お金の為なら仕方ない。
生きていくにはお金が必要だ。
「ヤバイ!マコテン!ヤバイ!」
「あー?」
「ヤバイヤバイ!」
本田さんが慌てて俺の所にきて顔を真っ赤にしている。
「朝宮さんから電話きた!」
「─── ッ!!なんだって!?」
本田さんを押し退けて事務所に入ると、真っ赤な顔をして話している高橋さんから電話を引ったくった。
「朝宮さん!」
「おはようございます、古内店長」
「……おはよう、ございます」
なるほど、なるほどなるほど。
やっぱり俺は夢を見ていたのかな。
朝宮さんとの時間はただの夢で、仕事の話をする彼の声にとても苦しくなる。
熱っぽく名前を呼ばれたことも、あの吐息も切羽詰まった表情も、全部きっとただの夢だ。
「じゃあ、古内店長また」
「あの……」
「はい」
この前は……なんて言っていいのかどうか。
でも朝宮さんは優しいから、誘えばきっとまたしようとか言ってくれるかもしれない。
切ろうとするのを繋ぎ止めておきたくて、あの……なんて言ってはみたものの、その先はまったく考えてなかった。
「どうしました?古内店長?」
「…………相談があって」
「相談?仕事の事ですか?」
「いえ、違うんです。夜って……その、今夜電話……無理ですか?」
「あー、ごめんなさい。夜は大切な用事があって」
「っ、すみません、大した事じゃないから大丈夫です」
「今じゃ駄目ですか?運転中の間だけなら」
朝宮さんの声は穏やかで、俺は何て言おうか考えて。
そしてまた本人にそれを言うという。
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