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「はぁっはぁっ……」
「ごめん、リップとれちゃった。塗り直す?」
やっぱりなんか変だ。いつもなら、たぶん触れるだけのキスのはず。リップを塗り直しながら、違和感でいっぱいになる。
「一平……」
「うん?」
「なんか、心配ごと?」
「あれ、きょうは逆だね。なんでわかったの?」
「わかるよ。わたしだって一平のこと大好きだもん。ね、私、どこにもいかないよ」
「……ほんと?」
「わたしね、まだまだ仕事がんばりたい。結婚してもそれは変わらないと思う」
「うん」
「でもね」
「……」
「仕事は替えがきくけど、好きな人は世界中にひとり、一平しかいない。一平がいるところがわたしのいる場所なの。だから、何があっても、いつも一平と一緒にいるからね」
一平は目をまん丸にして、びっくりしている。だって、本当だもん。
「男前だね、ほんと」
「おとこまえ?」
「ごめんね。俺、涼香がどっか行っちゃうような気がして……」
「どこにもいかないよ。ずっと一平のそばにいる」
「ありがと。俺も、ずっと涼香のそばにいる」
ぽすんと抱きしめられたらそこはふたりだけの世界。一平のこと大好きだ。
「帰りも迎えにくるね。6時まででしょ? またここで待ち合わせしよ」
「それまでどうするの?」
「岐阜の観光めぐりしてくる! 美味しいもの買ってくるから楽しみにしてて」
「でも、それじゃせっかくのお休みが……」
「いーの。ほら早くいかないと、遅れるよ!!」
一平は運転席から降りて助手席側にまわると、ドアを開けて、わたしが降りるのをエスコートしてくれた。
「いつもありがとう」
「どーいたしまして。がんばってね」
「はい」
わたしは一平に、にこにこと手を振って前を向き、岐阜店へと急いだ。
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