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仕事が終わって20時半。マンションへ向かう足取りは重い。一平にはお店を出る時に連絡をした。『俺の部屋にきてください』そう一言だけきたメッセージが、悲しい、さみしい、そう告げているようだった。
長くなるかもしれない。そう思って、一度部屋に帰り、Tシャツにロングのプリーツスカートに着替える。エレベーターを降り、一平の部屋のインターホンを押した。
──ガチャ
無言でドアを開けた一平の顔は、もうひとしきり泣き腫らしたようで、目が真っ赤。あぁ、私のせいだ。根拠もなくそう思った。
部屋のローテーブルを挟んで、ソファ側に私が座り、一平が反対側に腰を下ろす。散らかったティッシュが、一平が泣いていたのを物語るよう。
「り、りょーがさん、なんれ、もうあそ、びに行がないなんて、いうんれすか?」
ずびずびと垂れる鼻水をティッシュで拭きながら、一平が口を開く。ぐしゃぐしゃの顔もなんだかかわいい。私のひとことで、こんなに悲しんでくれるの?
「ごめん、言いすぎたね。あの日、私もすごく楽しかったよ。だから、もう一緒にはあそびにいけないの……」
「全っ然わがりまぜん、どういうことでずが?」
チーンっと甲高く鼻をかんだ一平がふがふがと鼻を鳴らす。
「あのね。私、優奈と約束したの」
「なにを?」
「一平のことは5億%好きにならない。だから安心してって」
一平はティッシュを広げたままピタッと動きを止める。大きな目を見開いて次の言葉を待っていた。
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