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「涼香さん。実は俺、あの事故の日、別れ話するつもりだったんです」
「えええっ!!」
弾かれたように顔を上げて驚愕した。あんなに仲の良さそうだったふたりが、そんなことになっていたなんて知らなかった。
「びっくりしすぎ」
「だ、だって、そんなふうに話してなかったじゃん。お互い、大好きで仕方ないんだと思ってた」
「結果としてはそうですね。コンビニから助け出してほんの少し、優奈と言葉を交わしました。優奈自身も怪我して倒れてる状況で、別れようっていってきたんですよ、すごいですよね」
淡々と話す一平。わたしは目を見開いて聞き入った。
「そのときまでは、もう別れるしかないと俺も思ってました。優奈の独占欲が重荷だったし。でもいざその状況になったら、優奈を失いたくない、ちゃんと話してやり直そうって口から言葉が出てました」
「そう、だったんだ……」
「優奈は、そこで俺に言ったんです。このまま私が死んだら、他の誰かと幸せになってって」
「えっ……」
「その言葉がずっと胸にあった、だから無理やり誰かと付き合って、幸せになろうとしてきました。でも誰のことも好きになれず、ただ相手を傷つけてしまうことに、もう罪悪感しかなくて」
すっと、私と一平の視線が絡む。その目が私をこの上なく求めているのがわかって息をのむ。
「となり、いいですか?」
そうつぶやくと、返事をする前に一平は私の右隣にすとんと腰を下ろした。ボディソープの香りが鼻を掠めてドキンと胸が鳴る。
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