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一平はわたしに向かって正座をして、話を続ける。
「涼香さん、俺だって優奈との約束守ろうとしてます。幸せになってっていう最後の約束」
一平は、すっと私の手をとると、手の甲にちゅっと口づけた。ポーッと汽笛が鳴るくらい、頭から蒸気がでそうになる。
「い、い、一平? あの……」
「涼香さん」
右手を握られたまま、熱っぽく名前を呼ばれて石になる。確実に色香をのせた一平の大きな瞳が私をじっと見つめた。
「ねぇ、なんで5億%好きにならない俺と、遊びに行ったり、飲みにいくの嫌なんですか?」
「そ、それは……」
「もしかして、ちょっとは俺のこと好きになりかけてます? このまま一緒にいれば、いつか好きになっちゃいそうで怖い。そんな感じですか? だからもう遊びに行かないって言ったんですか?」
矢継ぎ早に質問をされて、思わず目を伏せる。もうカチカチのセメント、またはコンクリートになった。ぜんぶ、図星だ。
「どうなんですか? 涼香さん」
「あの……その……えっと……」
「……」
「私、優奈との約束が守れなくなるのが怖い。ゆっくり、ゆっくり、自分の心が変化していくの。それが、わかるから……」
伏せていた目をそっと上げると、一平は顔を真っ赤にしている。
「ほんと、ひどい人。涼香さんて」
「えっ、あっ……ごめん」
一平はそういいながらも優しく笑う。
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