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「あした一緒に出かけてくれますか?」
「……い」
「い?」
「いいとも……」
「懐かしいですね。じゃあ8時に駐車場集合で」
「は、はい……」
「あーあ、お腹すいた。昼間あんなこと言われて、ぜんぜんご飯が喉通らなかったんですから。よかったら食べてってください」
「え、食べるって……」
「冷凍チャーハンですけど」
げらげら笑いがこみ上げる。ありがたく冷凍チャーハンをご馳走になって、一平の部屋をあとにする。
「一平、ありがとう。なんか話せてよかった」
「はい、俺もです」
「じゃあ、またあしたね」
一平に背を向けて、ドアノブに手をかけたところで後ろからぎゅっと抱きしめられる。ほどよい筋肉質の腕がわたしの首に絡みついて、心臓が大きく跳ねた。
「い、い、いいいいっ、一平?」
「おやすみなさい、大好きな涼香さん」
すっと首の後ろに柔らかいものが当たって、チュッと音がする。ひいいい!! い、い、今のって……。
バッと後ろを振り向くと、すぐそこに一平のやさしくほほ笑む顔。うっ、なんかドキドキする……。
「いやでした?」
「あっ、の、え、……んっと」
「?」
「い、いやじゃない。おやすみ!!」
逃げるようにドアを開けて、バタンと閉める。部屋の中から倒れるような音がしたけれど、恥ずかしすぎたので慌てて自分の部屋へ逃げ帰った。
なになに、いまの。心臓が壊れるかと思った。
……もう、これで自分を止めるものは何もない。なくなってしまった。
ゆっくり、ゆっくり、心が変化して、恋というものに近づいていく。その予感を感じて、ますます胸が苦しくなった。
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