好意をむけられて

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 茅葺きの建物が風情を感じさせる。江戸時代のお茶屋さんを模している店先に並んで、開店を待つ。  9時30分。開店すると同時に列が動く。入り口で食券を買い、庭が見える縁側に2人で並んで座った。  中は広い座敷のワンフロア。座敷の左側はきれいな庭が見えている。  好きなところに座って待っていると、スタッフさんが店内を回ってくる。食券と引き換えに、番茶とわらび餅を置いていくシステム。  わらび餅だけを売っているここのお店。こだわりの本わらび粉をつかったわらび餅は県外からも人が多く訪れる。    車じゃないと来られないから、来たことなかったけど、ずーっと気になっていた。ふわふわとろとろのわらび餅は黒蜜きな粉がいっぱいかかっていて美味しい。  「ちょ、涼香さん、口にきな粉ついてますよ」  夢中で食べていたので、きな粉がついていたのか、ちょんちょんと口の横に一平の指がふれた。そっときな粉を取るとぺろりと舐める。  私が石みたいに固まると、ん? どうしました? と、なんでもないような顔で言う。あぁ、もうどうしたらいいんだろう。  真っ赤になって目を伏せるくらいしかできない。ありがとうってかわいく言えたらいいのにな。もうちょっと素直になりたい。そしたら私と一平の関係も変わるのかな。  変わる? 私と一平の関係が?  こうやって一緒にいるままでも十分楽しい。このまま変わらなくても……。  もやもやっとした気持ちが体にまとわりつく。グレーで重たい、でもどこか少しだけ紅くて熱い。  この気持ちってなんて言うのかなぁ。やっぱり好き? それとも母性?   かわいらしくて、弟みたいな一平。  でもあの頃よりずっと大人になっていて、どちらかといえば、私の方が頼ってしまっているかもしれない。  
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