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心が乱されるくらいなら、このまま穏やかな関係でいてもいいかななんて思う。でも一平は? 私じゃない人を選んで、そのひとと幸せになるのかな。結婚して、家族が増えて。
ちくちく。胸が痛い。
「涼香さん? どうしました?」
急に声をかけられてビクッとする。
「な、なんでもないよ。わらび餅、お土産に買おうかな。実家に持っていこうと思って」
「ご実家、本山でしたっけ?」
「そうそう」
「帰り、送りますね」
「ありがとう」
真摯にわたしに向き合ってくれる一平の気持ちに甘えた現状。やっぱり、きちんと返事したほうがいいよね。
いますぐ、一平の気持ちを受け入れて、付き合うというのは正直、気持ちがついていかないというのか、勇気が出ないというか。
考えをめぐらせると、ものすごく自分の考えは勝手でわがままだと思えてきた。でも、このままじゃ、一平だって前に進めない。
「やっぱり、なんか変。考えごと?」
「へ? あ、あぁ、なんでもないよ」
「すぐそうやって言う」
「もう行こっか。待ってる人もいるし」
「……さみし」
「え?」
「俺だって、涼香さんが悩んでたら訊いてあげたいって思います。涼香さんが思ってるより、ずっと俺涼香さんのこと好きです」
そう言われて、心臓が思いっきり抉られたみたいに痛くなった。
こんなに好意を持ってくれている。それは素直にうれしい。でも、その先に進むのはまだ……怖い。
「どんな話もうけとめますよ?」
ちゃんと向き合わなきゃ。この前みたいに、話してみなければ何も始まらない。だとしても、こんな身勝手な気持ち伝えたら、きっと幻滅するよね。
それでも、一平になら、言えそうな気がする。このもやもやとした気持ちを。
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