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「はて、なぜステージに林檎が置いてあるのだろう」
誰かが言ったこの言葉は、この場の皆の心を代弁するものだった。
「大物スターのソロだというので、すっ飛んできたのに。今日のプロレスは力道山が出るんだぞ」
わが国初のオリンピックを控えた東京。ここは、そのどこかにある小さなホール。皆はステージに置かれた謎の林檎に注目する。
これの正体について、あるものは「これは前衛的なアートだ」と言い、他の誰かは「何らかの催眠実験だ」と主張した。
そんな中、ある男性が、壁にかかったカレンダーを指さした。
「おい見ろ!今日は4月1日、四月バカだ。俺たちは担がれたんだ!」
これには全員が合点した。憤慨、納得、各々の感情を胸に、皆は再びステージの林檎に見入った。
その時、ステージ裏ではディレクターが頭を抱えていた。実は今夜、かのリンゴ・スターのソロライブが企画されていたのだが、彼は何を間違えたか「林檎」を手配してしまったのだ。
まさか、口が裂けても言い出せるはずがない。
完
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